ロシオーロ・デイ・マルシ(Rosciolo dei Marsi)

2022年11月30日(水)、二番目の目的地は Rosciolo dei Marsi、Chiesa di Santa Maria in Valle Porclaneta です。

ここは、11世紀前半に建てられたロマネスク教会です。11世紀前半?の柱頭彫刻、11世紀末のニコロ親方の墓、12世紀?のイコノスタシス(iconostasi)、12世紀半ばの説教壇(ambone)とチボリウム(ciborio、祭壇の天蓋)が素晴らしいです。13世紀の後陣の外観もいいです。

教会は基本的に閉まっています。私はGoogleマップに載っていた番号に電話して、鍵を開けてもらえるよう、事前に予約しました。

目次

Rosciolo dei Marsi へ .
外観:美しい後陣 .
外観:地味なファサード .
概要 .
平面図と断面図 .
内観:全体 .
内観:ニコロ親方の墓、11世紀末 .
内観:説教壇(ambone)、12世紀半ば .
〜 pulpitoとamboneの違い 〜 .
内観:イコノスタシス(iconostasi)、12世紀? .
内観:チボリウム(ciborio)、12世紀半ば .
内観:謎の鏡文字 .
内観:地下室、11世紀前半 .
内観:柱頭彫刻、11世紀前半? .
博物館に保管されている聖母子、11世紀後半 .

Rosciolo dei Marsi へ

私は、スビアコ(Subiaco)から北西に約68km、60分ほど運転して、山の中の教会につきました。13時頃のことです。

スビアコ(Subiaco)まではラツィオ州でしたが、Rosciolo dei Marsi はアブルッツォ州。ここから12月4日までの5日間で17ヶ所を巡ります。アブルッツォ州は、ローマがあるラツィオ州の北東にあって、アペニン山脈の中央部からアドリア海まで広がりっているんですが、土地は山がちで不毛。道は舗装の手入れが行き届いてなくて、ぼこぼこな所があるし、道で動物を見かけるのなんて、しょっちゅうでした。人はみんな親切。田舎らしさと物価の安さが魅力です。

私の目当ては Chiesa di Santa Maria in Valle Porclaneta 、山の中にあります。

駐車場に車を停め、途中で馬🐴に遭遇しながら、舗装されていない道を歩きます。

外観:美しい後陣

着きました。美しい後陣です。13世紀前半に以前の半円形の後陣を改修したもの

Chiesa di Santa Maria in Valle Porclaneta(東側外観)

繊細な彫刻がありますが、残念ながらライオン🦁っぽい動物の彫刻は破損しています。

後陣
後陣

現地に着いたら電話するように言われていたので、鍵守りのマリオさんを呼びました。

外観:ファサード

ファサードは地味な感じです。

広場になっているところに、ドルメンみたいなのがあります。案内板によると、かつては回廊の入り口でした。

西側外観
西側外観

ファサードで気になった点が、二つあります。

一つ目は、入口アーチの柱の側面に刻まれた二つの碑文です。

案内板によると、教会建設の功労者である寄付者ベラルド(Berardo)と建設を監督したニコロ親方(Nicolò)の名前が記されている。

ニコロ親方(Nicolò)
ベラルド(Berardo)

個人的には、ニコロ親方(Nicolò)の碑文の方を、うんと立派に作ったところが、好きです。

二つ目は、アーチの中央の上にうめこまれている十字架。

ロンゴバルド系の装飾を思わせる、11世紀より古いような印象です。昔の建物で使われた彫刻の再利用かもしれません。

ファサード
十字架

鍵守りのマリオさんが到着しました。早速、中を見学です。

概要

駐車場と教会のポルティコに案内板がありました。また、鍵守りのマリオさんからリーフレットをもらいました。それらを参考にして太字でまとめます。

括弧内のアルファベットは、イタリア語です。

教会は、ヴェリーノ(Velino)山の海抜1,006メートルの斜面に佇む。教会の名前に含まれるポルクラネータ(Porclaneta)は、渓谷の古名である。

この教会の起源は、不確かであるが、いくつかの柱頭に見られる文字は、この修道院の設立を7世紀末か8世紀とする可能性がある。

教会は、かつては修道院の一部であり、11世紀前半にマルシの伯爵(Conte dei Marsi)であるベラルド(Berardo)の寄付により、ニコロ親方(maestro Nicolò)によって建てられた

11世紀末修道院はモンテカッシーノのベネディクト修道院の手に渡り、モンテカッシーノのデジデリオ(Desiderio)大修道院長は、教会の改修と装飾を行った。

何世紀にもわたって、教会は数々の歴史的な出来事に見舞われた。

修道院の痕跡はほぼすべて消え、現在はドルメン状の一枚岩からなる回廊の入り口が残るのみである。教会は、北側は一部が再建されたものの、シンプルな空間と非常に質の高い彫刻装飾を特徴とする、ベネディクト会のオリジナルのレイアウトを保っている。

案内板にあった平面図と断面図です。

平面図、東が上
断面図、東が左

この後も、案内板やリーフレットを引用する時は太字で書きます。

内観:全体

建物は、半円形の後陣と三つの身廊があります。

柱や壁には、主に14世紀から15世紀にかけて描かれたフレスコ画の断片が残されています。

身廊にて南東を向く
身廊にて東を向く
身廊にて北東を向く

見どころ満載です。

内観:ニコロ親方の墓、11世紀末

南側廊の西端に、11世紀末のニコロ親方(maestro Nicolò)の墓があり、その上に後期ゴシックの祠があります。

ニコロ親方(maestro Nicolò)の墓

天使たちの翼が、きれいです。

ニコロ親方(maestro Nicolò)の墓

Wikipediaによると、ラテン語で”Opus Est Fatum Nicolaus Q.Iacet Hic”と書いてあるんだそうです(Wikipediaは Giuseppe Grossi, Marsica: guida storico-archeologica, Luco dei Marsi, Aleph, 2002 を参照したようです)。

内観:説教壇(ambone)、12世紀半ば

アブルッツォ州の教会の最も顕著な特徴は、説教壇(ambone)とチボリウム(ciborio、祭壇の天蓋)です。この教会の他にも、いくつかあるので追ってご紹介します。

〜 pulpitoとamboneの違い 〜
ボミナコ(Bominaco)でガイドから pulpito と ambone は厳密には用途が違うと教わりました。pulpito は主に司祭が説教をするもの、ambone は主に修道士が聖書を読み上げるものなんだそう。手元の小学館伊和辞典をみると、pulpito は「説教壇」とだけ訳され、amboneは「(初期教会堂にある)高座、説教壇、読経台」と訳されています。

この教会のこれ↓については、ほぼ全ての案内に、ambone と書いてあります。

ambone

当初に設置された場所に残っているそう。

階段にはヨナの物語が、上の籠にはサロメとダビデが描かれています。

個人的に、ヨナもサロメもダビデも好きなので、私は楽しくってしょうがない。

階段に、1150年にニコデモ(Nicodemo)と共同で制作していたロベルト(Roberto)の署名が入っているんだそう。

内観:イコノスタシス(iconostasi)、12世紀?

わお!と思ったのは、木製のまぐさ。

木製のまぐさ
木製のまぐさ
木製のまぐさ

エキゾチックで、超絶に繊細です。良かったら、クリックして拡大してみてください。

下部のこちらは、はっきりと切れ目があり、作風も異なる印象なので、別々につくられた彫刻をつなぎ合わせた感じです。

iconostasi

どれも表情が豊かでいいですよね。

内観:チボリウム(ciborio)、12世紀半ば

説教壇(ambone)と同じ1150年頃に同じ作者が制作したそう。

1145年頃に自分たちが制作した、Abbazia di San Clemente al Vomano の構造を模したと考えられています。

西面

壮大な構想を形にしています。

南面
東面
北面

Abbazia di San Clemente al Vomano に12月3日に訪問して、案内を聞いたので、詳しくはそちらで書きます。

でも、ひとつだけ。これらの彫刻を施すために、不思議な漆喰が使われました。リーフレットによると、分析の結果、白亜(gesso)、石灰(calce)、石灰粉(polvere calcarea)、シリカ(silicea)などで構成されていることが判明したそうです。

内観:謎の鏡文字

内陣の柱頭に、鏡文字による碑文があります。

リーフレットには、この碑文はベネヴェントがマルシカを支配していた時代によく見られた文字で、修道院の設立を7世紀末から8世紀初めに遡らせる可能性があると書いてあります。

ロンゴバルド王国の歴史を調べたところ、ベネヴェント(Benevento)はロンゴバルド諸公のひとつで、7世紀末から8世紀頃に力を増していたようです。

内陣
鏡文字による碑文

ネットで得た情報によると、文字は「GRATA DNI NOSTRI IHI(我々の主イエスキリストの栄光に)」と読めるそうです。

内観:地下室、11世紀前半

内陣は、地下室の構造のためもあり、5段の階段で持ち上げられています。

南側に、地下室への入り口のアーチがあります。

地下室への下り口
地下室への下り口

でも、鍵守りのマリオさんによると、地下には階段と空間と壁があるだけ、とのことでした。彫刻も壁画もないそうです。

内観:柱頭彫刻、11世紀前半

最後に、お楽しみの柱頭彫刻。

南側廊にて北東を向く

植物や幾何学的な模様が多いのですが、中には謎めいたものがあります。

この、動物に挟まれて人がひっくりかえっています。

花や蝶、手。

人物が左手に何かを持っています。

どうも、キリスト教の図像とは違うようです。

謎めいた柱頭彫刻、力強くて、いいですよね。

見学の終わりに

Chiesa di Santa Maria in Valle Porclaneta。11世紀前半に建てられたロマネスク教会です。11世紀前半?の柱頭彫刻、11世紀末のニコロ親方の墓、12世紀?のイコノスタシス(iconostasi)、12世紀半ばの説教壇(ambone)とチボリウム(ciborio、祭壇の天蓋)が素晴らしいです。13世紀の後陣の外観もいいです。

博物館に保管されている聖母子、11世紀後半

この日の最後に見学したマルシカ聖美術博物館(Museo di Arte Sacra della Marsica)に、Chiesa di Santa Maria in Valle Porclanetaにあった彫刻が保管されていました。

すごく良いので、紹介させてください。

アブルッツォの彫刻家によるもので、戴冠の聖母とイエス、11世紀後半とされています。

Museo di Arte Sacra della Marsica に保管されている彫刻

威厳がありながら、慈悲深い印象もあって、素晴らしい。

Chiesa di Santa Maria in Valle Porclaneta に来たら、マルシカ聖美術博物館(Museo di Arte Sacra della Marsica)にも、ぜひ。

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