2024年7月30日(火)の最後、三番目に訪れたのはPetrella Tifernina、Chiesa di San Giorgioです。
ここは、この地方で最も興味深いロマネスク建築のひとつです。あちこちに残された彫刻が、みんなかわいいです。
2024年、教会は毎日8:00〜19:00に開いていました。
目次
1. Petrella Tifernina へ .
2. 概要 .
3. 平面図 .
4. 外観(後陣) .
5. 外観(北側) .
6. 外観(ファサード) .
7. 外観(南側) .
8. 内観 .
1. Petrella Tifernina へ
ペトレッラ・ティフェルニーナ(Petrella Tifernina)は、モリーゼ州カンポバッソ県にある村です。カンポバッソ(Campobasso、県都でありモリーゼ州の州都)の約15km北にあります。
教会は、町の歴史的中心部にあります。

この教会は、通常とは逆向きで、西に後陣があります。
南小後陣は聖具室に隠れていますが、三後陣です。
2. 概要
教会の外に案内板がありました。私が一部を抜粋して太字で和訳します。
サン・ジョルジョ・マルティーレ教会(chiesa di San Giorgio Martire)は、この地方で最も興味深いロマネスク建築のひとつである。
12世紀に着工されたが、建築に時間がかかったため、完成したのは13世紀になってからであった。このため、教会の外観と内部では、異なる芸術的展開が見られる。建物自体に保存されている年代に関する唯一の資料は、主扉口のルネッタに刻まれた碑文である。
この後も、案内板を引用する時に太字で書きます。
3. 平面図
sioz4026さんからお借りした(Jaca Book)Italia Romanica『Abruzzo e Molise』による平面図です。東が下です。

主扉口は東にあります。そして、南北側廊の第2柱間にも扉口があります。
4. 外観(後陣)
北小後陣に装飾があります。

窓の周りも素敵なのですが、ペドゥッチョ(peduccio、持ち出し)の彫刻がかわいい。

5. 外観(北側)
北側に窓が四つあり、それぞれに装飾があります。

ブドウのような植物の模様が多いです。

こちらも、ブドウのような植物の模様。

こちらは、怪物が男性を飲み込んだり吐き出したりしているようです。主扉口の図像につながります。

北扉口です。

ティンパヌムには、神の子羊や魚が描かれています。動物たちの手足の表現が独特です。

6. 外観(ファサード)
東に行きます。
ファサードです。

主扉口(東扉口)をみます。

アーチに多様な彫刻があります。
くるくると巻いた尾を持つ怪物がいます。男性の頭が怪物の口の中にあります。男性の後ろには、刀と盾で武装した別の男性がいます。

ティンパヌムをみます。
男性が怪物に飲み込まれたり吐き出されたりしています。
マトリーチェ(Matrice)のファサードにも同様の図像がありましたが、この男性は、たぶん、ヨナ。

なぜなら、ヨナ(IONAS)と書いてあるから。

新共同訳聖書『ヨナ書』には、ヨナが呑み込まれるのは巨大な魚と書いてあります。ここに描かれている生き物はちっとも魚の姿をしていません。むしろ「ケートス」です。
金沢百枝『ロマネスクの宇宙ージローナの《天地早々の刺繍布》を読む』東京大学出版会、2008年によると「ケートス」の特徴は以下五点です。
(1) 犬のような獣頭と、ぴんと立ち、尖った長い耳。
(2) とぐろを巻いた長い尾。
(3) しっかりとした前足、あるいは魚のような前鰭。
(4) 葉状装飾に代わる場合もある尾先の鰭。
(5) 腹部の膨らみ。
さらに、同書にこう書いてあります。
原本であるヘブライ語聖書では〈dag gadol〉(大きな魚)、ヘブライ語から翻訳されたウルガタ聖書でも〈piscis grandis〉(大きな魚)となっているが、初期キリスト教時代広く使用されていたギリシア語訳聖書のみ、ケートス〈κῆτος〉となっているのである。
アルカイク期の壺絵のケートスは大きな魚として描かれているので、ギリシア語の〈κῆτος〉にも「魚」のイメージはあったのだろう。そのため、聖書をヘブライ語からギリシア語へ翻訳する際、大きな魚〈dag gadol〉に対応する単語として〈κῆτος〉を用いたと考えられるが、初期キリスト教時代、〈κῆτος〉という単語からイメージされる生き物は、すでに「大魚」ではなく海獣ケートスに変わっていた。「ヨナ書」の怪物ケートスを魚として描いた初期キリスト教時代の作例はない。ヘブライの大魚が海獣ケートスへと転換を果たした背景には、聖書の翻訳の問題が隠されていたのである。
私は、ケートス〈κῆτος〉と訳されて良かったと感じています。なぜなら、かわいいから。
碑文は、ティンパヌムの下の方にもあります。
(Jaca Book)Italia Romanica『Abruzzo e Molise』によると「AD O.OREM DEI ET BEATI GEORGI MARTIRIS EGO AGISTE. EPI DIDI SC FECI ADO_ MDECIMO.」と刻まれているそう。
「A (nno) DO (mini millesimo duecentesimo u) DECIMO」つまり1211年に教会が奉献されたと解釈されています。
また、「EPI DIDI」は教会を建てた棟梁の名前を刻んだものと考えられています。

7. 外観(南側)
私は、南扉口のティンパヌムをみたかったのですが、うっかりして見逃しました。
sioz4026さんからお借りした(Jaca Book)Italia Romanica『Abruzzo e Molise』による写真です。

教会の南に建物があるために簡単に見られなくなっています。でも、たぶん、教会の中に入ったあと南側廊から中庭に出ると、南扉口のティンパヌムを見ることができると思います。
また、ティンパヌムの近くには、聖ゲオルギウスの浮き彫りがあります。
8. 内観
教会の中に入ります。

美しい水盤があります。

また、神秘的な柱頭彫刻が楽しいです。
柱頭1
かわいいライオン。

柱頭2
うっしっし。

柱頭3
ブドウ、美味しそう。

柱頭4
繁茂する植物。

柱頭5
それは、乳房なのでしょうか。

柱頭6
立派な歯。

柱頭7
男性たちの、ふれあう足先。

柱頭8
上の方に彫られている動物たち、かわいい。
柱頭9
神の子羊、ぎらぎら。

柱頭10
ワシたちも、ぎらぎら。

Chiesa di San Giorgio。この地方で最も興味深いロマネスク建築のひとつです。あちこちに残された彫刻が、みんなかわいいです。
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南扉口のティンパヌムは、初めての訪問では見逃しました。どこにあるのか全く分からなかったです。二回目の訪問でZODIAC選書を示して「これどこ?」と聞いて、教会内部の本当に分かりにくいドアを示され「その外側」と言われてたどり着いたものです。
それ以前に、最初に、この教会に入ったときに、猛烈な違和感に襲われました。何だろう?全く分からず、教会内外の彫刻の面白さに見とれていて、違和感の解消まで至りませんでした。二回目の訪問で教会を開けてくれた男性に説明を受けて気が付いたのですが、側廊の柱が互い違いになっている(南と北で同じ位置にない)。祭壇の(入口の)柱も並んでいない(南北でずれている)ということだったのですね。地形に合わせて無理に建てた名残だそうです。教会に限らずホテルもそうですが、地形に合わせて建てたために独自の味わいを醸し出しているケースも楽しみなことですね。
はい、独自の味わい、いいですよね!
南扉口のティンパヌムを見逃したのが私だけじゃなくて、なんだか少し心強くなりました。
私も、いつか再訪しようと思います。