2024年5月20日(月)の最後、三番目に訪れたのはSaint-Ferme、Abbaye de Saint-Fermeです。
ここSaint-Fermeは、2024年春🌸の旅行の最後の訪問地です。
ここは、「サン=フェルムの親方(Maître de Saint-Ferme)」が統括する工房によって作られた、三後陣の彫刻装飾が素晴らしいです。
私は事前に役場(mairie)に5月20日に修道院が開いているかを問い合わせました。「修道院は毎日開いています。水曜の午後にはガイドツアーがあります。」と返信がありました。
目次
1. Saint-Ferme へ .
2. 概要 .
3. 平面図 .
4. 外観(西側) .
5. 内観(身廊と交差部) .
6. 内観(三後陣) .
1. Saint-Ferme へ
サン=フェルム(Saint-Ferme)は、ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏ジロンド県にある小さな村です。ボルドー(Bordeaux、同地域圏の首府であり同県の県庁所在地)の約53km南東にあります。
小さな村の大きな修道院です。
2. 概要
教会の外に案内掲示がありました。私が一部を抜粋して太字で和訳します。
歴史
サン・フェルム修道院(abbaye de Saint-Ferme)は、アキテーヌの偉大なベネディクト会修道院のひとつである。1080年6月、バザス(Bazas)の司教は、ソミュール(Saumur)のサン・フロラン修道院(abbaye de Saint-Florent)の修道士たちに修道院を寄贈し、修道士たちはこの修道院で再び規律を守るようになった。修道院は百年戦争や宗教戦争の被害を受け、幾度となく包囲攻撃を受け、1586年と1615年には占領された。最終的に1770年8月10日に廃止された。
教会の建築は、12世紀中頃のロマネスク芸術の素晴らしい例である。高度に発達したヴォールトを持つ三つの後陣がある。
この後も、案内掲示を引用する時に太字で書きます。
3. 平面図
案内掲示による平面図です。東が上です。
建物のアンサンブルは12世紀、身廊と西側部分は17世紀の再建。
4. 外観(西側)
西に行きます。
西側ファサードは、1615年の破壊の後に再建されたものである。ゴシック様式の大きなバラと、百年戦争の際に教会の扉を守るために作られた防御システムの痕跡が残っている。
5. 内観(身廊と交差部)
教会の中に入ります。
身廊は、1615年の破壊の後、当初の計画に従って再建された。
交差部は後に、交錯するモチーフや花で装飾された2本の幅広の平らな肋骨の上に置かれたヴォールトに置き換えられた。これは、12世紀後半に建てられたジロンド地方で最初のゴシック様式のヴォールトのひとつである。
6. 内観(三後陣)
この教会のロマネスクとしての見どころは、三後陣に残る柱頭彫刻です。
三後陣の彫刻装飾は、「サン=フェルムの親方(Maître de Saint-Ferme)」が統括する工房によって作られた。
「サン=フェルムの親方(Maître de Saint-Ferme)」の特徴は、以下の二つだと思います。
ひとつは、上部の渦巻き。もうひとつは、衣のひだ。
上部の渦巻きは、ソフトクリームのようにボリュームがあるところ。衣のひだは、ハクション大魔王の口のように生き生きとしているところだと思います。
思い出すのは、エスクロット(Esclottes)。柱頭上部の渦巻きの、ソフトクリームのようにボリュームがあるところが似ています。
北小後陣
北小後陣の入口アーチには、彼の作品とされる二つの柱頭がある。
左側には獅子の間にいるダニエルと預言者ハバククが描かれ、右側にはダビデとゴリアトの戦いが描かれている。
北小後陣左(北)側:「獅子の穴の中のダニエル」(旧約聖書『ダニエル書』6章、旧約聖書続編『ダニエル書補遺 ベルと竜』)。
『ダニエル書補遺 ベルと竜』
33: さて、ユダヤに預言者ハバククがいた。彼はシチューを作り、パンを裂いて器に入れ、刈り入れをしている人たちに届けるため、畑に行くところだった。
34: そのとき、主の使いがハバククに言った。「あなたが持っているその食べ物を、バビロンの獅子の洞窟にいるダニエルのところに持って行きなさい。」
35: ハバククは言った。「主よ、わたしはバビロンを見たこともなく、ましてその洞窟など知りません。」
36: すると主の使いは、ハバククの頭のてっぺんをとらえ、髪の毛をつかむやいなや、息の一吹きで、彼をバビロンの洞窟の前に立たせた。
37: ハバククは大声で言った。「ダニエル、ダニエル、この食べ物を受け取りなさい。神があなたに送ってくださったのです。」
38: ダニエルは言った。「神よ、あなたは、わたしを思い出してくださいました。あなたを愛する者たちをお見捨てにならないのです。」
39: そしてダニエルは立ち上がって、それを食べた。すると神の使いはハバククを、直ちに元の場所に帰した。
アバクス(柱頭の上に置かれてアーチを支える部分)に、丸いものを持つ手があります。翼がないので天使ではなさそうです。パンを持つハバククの手かもしれません。
獅子のたてがみのカールが素敵。
北小後陣右(南)側:「ダビデとゴリアト」(『サムエル記上』17章)。
軽装の美しい少年ダビデが、重装備のゴリアトに、石投げ紐と石で勝っちゃう場面です。
主後陣
主後陣では、三つの窓の柱頭に物語性のある彫刻が施されています。
主後陣の柱頭1:「神殿奉献」(『ルカによる福音書』2章)。
イエスの足がかわいい。
主後陣の柱頭2:「ペトロの足を洗うイエス」(『ヨハネによる福音書』13章)
最後の晩餐のとき、有名な「あなたがたのうちの一人が私を裏切ろうとしている。」という言葉の前に、イエスは弟子たちの足を洗います。
『ヨハネによる福音書』13章
8: ペトロが、「私の足など、決して洗わないでください」と言うと、イエスは、「もし私があなたを洗わないなら、あなたは私と何の関わりもなくなる」とお答えになった。
9: シモン・ペトロは言った。「主よ、足だけでなく、手も頭も。」
イエスの左には、天使がいます。
イエスの手元やペトロの足が細やかに描かれています。
主後陣の柱頭3:「アダムとエバ」(『創世記』3章)。
エバは腰回りがふくよか。得意げな顔も良いです。
南小後陣
南小後陣の入口アーチの柱頭も同様に注目に値する。左側では、背中を向けた2人の男性が2頭の怪物に飲み込まれている。右側では、2頭の獅子に挟まれた若者が救世主による平和を思わせる。
南小後陣左(北)側:2頭の怪物に飲み込まれている2人の男性
この柱頭彫刻は、北小後陣や主後陣の主だった彫刻を手がけた石工の作品とは、特徴が異なります。別の石工による作品のように思います。
ペリゴール(Périgord)地方にあるティヴィエ(Thiviers)の柱頭彫刻を思い出します。あちらでは、隣の柱頭に牙のない怪物たちと男性たちが描かれていました。その男性たちの顔が穏やかなので、怪物たちは地獄の罰を与える生き物としてではなく、ヨナの巨大な魚のように、神の人類救済を象徴する一種の奇跡として、獲物を食べて返す飲み込み役とみられていました。
この教会では、向かい側に、救世主による平和を思わせる柱頭彫刻があります。
南小後陣右(南)側:2頭の獅子に挟まれた若者。
口をかたく結んで、鼻の穴を膨らませています。気合い入ってるかも。
Abbaye de Saint-Ferme。「サン=フェルムの親方(Maître de Saint-Ferme)」が統括する工房によって作られた、三後陣の彫刻装飾が素晴らしいです。
〜2024年春🌸の旅行の終わりに〜
サン=フェルム(Saint-Ferme)を最後に、ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏、オクシタニー地域圏を巡る2024年春🌸の旅行は終了しました。
Whit Monday(聖霊降臨節の月曜日)で閉まっていたり(Église Saint-Hilaire de Rimons)、ガイドの怪我で訪問できなくなったり(Église Saint-Pierre de Saint-Pierre-Les-Églises de Chauvigny)、予約していても閉まっていたために往復3時間かけて再訪したり(Église Notre-Dame de l’Assomption de Cause-de-Clérans)。でも、主な教会をたくさん訪問することができました。数多くの方々のご厚意のおかげです。
4月25日から26日間で94か所を巡りました。どれも、鮮やかに心に残っています。
読んでくださり、ありがとうございました。
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