ボーリュ=シュル=ドルドーニュ(Beaulieu-sur-Dordogne)

2024年5月13日(月)、二番目に訪れたのはBeaulieu-sur-Dordogne、Abbatiale Saint-Pierre です。

ここは、外観では、南扉口のティンパヌムが素晴らしいです。放射状祭室の持ち送りも良いです。内観では、その構造と、小さな扉口のまぐさに施された浮き彫りが良いです。

目次

1. Beaulieu-sur-Dordogne へ .
2. 概要 .
3. 平面図 .
4. 外観(東側) .
5. 外観(南側) .
6. 内観 .

1. Beaulieu-sur-Dordogne へ

Beaulieu-sur-Dordogne は、ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏コレーズ県の村です。中央高地の西側に位置します。オート=ヴィエンヌ県、コレーズ県とクルーズ県のあたりは、リモージュ(Limoges)を歴史的な中心地とし、リムーザン(Limousin)地方と呼ばれます。

Beaulieu-sur-Dordogne は、リモージュ(Limoges)の約103km南東にあります。

また、ロット県、タルヌ=エ=ガロンヌ県の北半分、ドルドーニュ県、コレーズ県、アヴェロン県の一部のあたりは、カオール(Cahors)を歴史的な中心地とし、ケルシー(Quercy)地方と呼ばれます。

Beaulieu-sur-Dordogne は、カオール(Cahors)の約42km北東にあります。

珍しいことに、Beaulieu-sur-Dordogne は、ゾディアック(Zodiaque)la nuit des temps の『Limousin Roman』と『Quercy roman』の両方に掲載されています。『Quercy roman』では南扉口について、『Limousin Roman』では南扉口を除く全体について紹介されています。

Abbatiale Saint-Pierre は、リムーザン(Limousin)とケルシー(Quercy)との接点だったからだと思います。

西側外観

西扉口は簡素なつくりです。

2. 概要

ゾディアック(Zodiaque)la nuit des temps の『Limousin Roman』による概要です。私が一部を抜粋して太字で和訳します。

『ガリア・クリスティアナ(Gallia Christiana)』によると、ベネディクト会修道院は、ブールジュ大司教ラウルによって、ドルドーニュ川右岸の「ヴェリヌム(Vellinum)」と呼ばれていた場所に設立された。この出来事は9世紀中頃のことである。

1095年5月23日にクリュニーの修道士たちがこの修道院を所有したと記されている文書があり、1076年以来、依存関係が存在していたことが記されている。

残念ながら、ロマネスク様式の教会の建築年代は文書に記されていない。年代を明らかにするためには、建物そのものを調査する必要がある。ロマネスク期以前のものは何も残っておらず、ほとんどが12世紀のものであることは明らかである。

16世紀にユグノーにより破壊され、北側廊が修築されました。17世紀に大規模な改修が行われました。フランス革命により、教会は教区教会になりました。19世紀以降、繰り返し修築が行われました。

この後も、ゾディアック(Zodiaque)を引用する時に太字で書きます。

3. 平面図

ゾディアック(Zodiaque)la nuit des temps の『Limousin Roman』による平面図です。東が上です。

『Limousin Roman』より

黒色:12世紀初め
右から左への斜線:12世紀初め
左から右への斜線:1125年〜1135年
横線:13世紀
水玉:14世紀
格子:16世紀末

4. 外観(東側)

東に行きます。

三つの放射状祭室、周歩廊、クワイヤ、それぞれの屋根が層になっています。

北東側外観

軒下や窓に円筒状の装飾があります。この特徴はリムーザンの影響を代表するものです。

石工のマーク(Marque de tâcheron)があちこちに刻まれています。その正確な機能は明らかではありませんが、 石材の生産や納品の管理あるいは組立の確認に使われた可能性があるようです。

東側外観

持ち送りを四つご紹介します。

持ち送り1:男性と四足獣、持ち送り2:男性、だと思います。

持ち送り1
持ち送り2

持ち送り3:耳の長い生き物たち、持ち送り4:両目に手をあてる男性、だと思います。

持ち送り3
持ち送り4

どれも、愛嬌があります。

5. 内観(南側)

南に行きます。

身廊の軒下にも持ち送りがありますが、割愛します。

南側外観

南扉口をみます。

南扉口

ゾディアック(Zodiaque)la nuit des temps の『Quercy roman』による文章です。私が一部を抜粋して太字で和訳します。

ボーリュ(Beaulieu)のティンパヌムは、キリスト教美術の歴史において重要な局面を示している。モワサック(Moissac)の「永遠の幻影」と、オータン(Autun)とコンク(Conques)で盛んになりゴシック時代に特に成功を収めた「最後の審判」との間で、ボーリュの図像はその両方の一部であり、一種の移行を確立している。

ボーリュの主題はもはや、モワサックの「永遠のものの出現」ではない。ボーリュにおけるキリストは「人の子が大いなる力と栄光を帯びて天の雲に乗って」(『マタイによる福音書』24章30節)現れ、墓に下りて再びよみがえった肉体を現す。

一方、オータン、コンクその他多くのゴシック聖堂で確立されている「最後の審判」の図像は、まだボーリュには描かれていない。死者がよみがえり、天使のラッパが鳴り響く。地獄は存在する。しかし、審判の時は差し迫っているとはいえ、まだ来ていない。

ボーリュでのテーマは、信者が読む『マタイによる福音書』24章29節〜31節である。語られるのはキリストの勝利であり、世界の最後の日にキリストが勝利の再臨を果たすことである。

『マタイによる福音書』24章
29:「その苦難の日々の後、たちまち/太陽は暗くなり、/月は光を放たず、/星は空から落ち、/天体は揺り動かされる。
30: そのとき、人の子の徴が天に現れる。そして、そのとき、地上のすべての民族は悲しみ、人の子が大いなる力と栄光を帯びて天の雲に乗って来るのを見る。
31: 人の子は、大きなラッパの音を合図にその天使たちを遣わす。天使たちは、天の果てから果てまで、彼によって選ばれた人たちを四方から呼び集める。」
扉口:再びよみがえった肉体を現すキリスト

聖ペトロは、主の受難の最初の告知(『マタイによる福音書』16章22節〜23節)を理解しなかった。

『マタイによる福音書』16章
21: このときから、イエスは、御自分が必ずエルサレムに行って、長老、祭司長、律法学者たちから多くの苦しみを受けて殺され、三日目に復活することになっている、と弟子たちに打ち明け始められた。
22: すると、ペトロはイエスをわきへお連れして、いさめ始めた。「主よ、とんでもないことです。そんなことがあってはなりません。」
23: イエスは振り向いてペトロに言われた。「サタン、引き下がれ。あなたはわたしの邪魔をする者。神のことを思わず、人間のことを思っている。」
24: それから、弟子たちに言われた。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。
25: 自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、わたしのために命を失う者は、それを得る。
26: 人は、たとえ全世界を手に入れても、自分の命を失ったら、何の得があろうか。自分の命を買い戻すのに、どんな代価を支払えようか。
27: 人の子は、父の栄光に輝いて天使たちと共に来るが、そのとき、それぞれの行いに応じて報いるのである。

イエスは私たちのために大声で叫びながら死なれたのだ。この十字架は、聖ペトロを驚きと感嘆で感動させる。ボーリュ(Beaulieu)では、この十字架を見て唖然とするペトロが描かれている。最初は拒絶していた十字架が、今では多くの栄光の源であることを発見している。

右手に鍵を持ち、十字架を見る聖ペトロ。

復活した人々は、墓から石を取り去り、彼らを死から救い、祝福された人生を約束する救いのしるしである十字架に目を向ける。

復活し、十字架に目を向ける人々

学者たちや諸国の賢者たちは、「ユダヤ人にはつまずかせるもの、異邦人には愚かなもの」(『コリントの信徒への手紙一』1章23節)であるキリストと十字架を指し示す。

十字架を指し示す学者たち

この十字架の典礼に、キリストの栄光と支配の道具となった他の受難の道具の典礼が加わる。天使たちは、いばらの冠に取って代わった冠と、キリストが十字架に固定された釘を携えてやってくる。

他の受難の道具を携えてやってくる天使たち

『マタイによる福音書』だけでなく、『ヨハネの黙示録』にも目が向けられている。これは悪魔の世界であり、そのはかない力はキリストの決定的な勝利によって消滅する。

ヨハネの黙示録13章
1: わたしはまた、一匹の獣が海の中から上って来るのを見た。これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の王冠があり、頭には神を冒瀆するさまざまの名が記されていた。
七つの頭がある一匹の獣

左端には、悪魔の口があり、その頭には炎が燃え盛っています。

左端:悪魔の口

悪魔の口が狙っているのは、呪われた人間をむさぼり食うライオン。その隣に壮麗なグリフォンがいます。

ライオン、グリフォン

反対側の端には、逆さまになった口。

右端:逆さまになった口

ティンパヌムとまぐさは差し迫る「最後の審判」を描くことで、悪魔に対するキリストの勝利を表しているようです。

まぐさを支える大きな柱をみます。このような中央柱はトリュモー(trumeau)と呼ばれます。

trumeau
trumeau(別角度)

あごひげが束になっている老人が印象的。

trumeau

ティンパヌムだけじゃなく、その両側でも、キリストの勝利を描いているようです。

西側に「獅子の穴の中のダニエル」(旧約聖書『ダニエル書』6章)、東側に「イエスの誘惑」(『マタイによる福音書』4章、『マルコによる福音書』1章、『ルカによる福音書』4章)が描かれています。

西側:「獅子の穴の中のダニエル
東側:「イエスの誘惑」

キリスト、悪魔に勝ちまくりです。

6. 内観

教会の中に入ります。

身廊にて東を向く

三つの小さな扉口(第4柱間にあるかつての回廊への扉口、北翼廊にあるトリビューンへの扉口そして南翼廊にあるトリビューンへの扉口)のまぐさに浮き彫りがあります。

三つのうちのひとつ、南翼廊の浮き彫りをご紹介します。

両側に大きな四足獣が二頭います。中央の男性は両方の大きな四足獣を支配しているようです。

南翼廊の浮き彫り

この扉口の先には、螺旋階段があるはずです。

螺旋階段の先には、トリビューンがあり、ビフォラ(開口部が二つの窓)からクワイヤを見下ろすことができるのだと思います。

南翼廊にて北東を向く

素敵な構造です。

Abbatiale Saint-Pierre。外観では、南扉口のティンパヌムが素晴らしいです。放射状祭室の持ち送りも良いです。内観では、その構造と、小さな扉口のまぐさに施された浮き彫りが良いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です