モワサック(Moissac)

2024年5月16日(木)、最初に訪れたのはMoissac、サン=ピエール・ド・モワサック修道院(Abbaye Saint-Pierre de Moissac)です。

ここは、南扉口はロマネスク彫刻の傑作です。身廊には多色木製の美しい磔刑像があります。鐘楼ではその建築と柱頭に驚き、回廊では柱頭や柱の彫刻に魅せられます。

2024年5月、教会と回廊は毎日9:00〜12:00と14:00〜18:00に開いていました。回廊は有料(€7)です。回廊の入口で支払います。

目次

1. Moissac へ .
2. 概要 .
3. 平面図 .
4. 外観(南扉口) .
5. 内観(鐘楼ポーチ) .
6. 内観(教会) .
7. 内観(回廊) .
8. 内観(鐘楼上階) .

1. Moissac へ

モワサック(Moissac)は、オクシタニー地域圏タルヌ=エ=ガロンヌ県にある町です。

ロット県、タルヌ=エ=ガロンヌ県の北半分、ドルドーニュ県、コレーズ県、アヴェロン県の一部のあたりは、カオール(Cahors)を歴史的な中心地とし、ケルシー(Quercy)地方と呼ばれます。

モワサック(Moissac)は、カオール(Cahors)の約50km南西にあります。

南側外観

教会のまわりには、朝から多くの人がいました。

2. 概要

教会の外に案内板がありました。私が一部を抜粋して太字で和訳します。

伝説では、最初の修道院は6世紀にフランク王クロヴィスによって建てられたとされているが、サン=ピエール・ド・モワサック修道院(Abbaye Saint-Pierre de Moissac)が設立された時期は不明であり、カロリング朝時代である8世紀末に存在していたことだけが確認されている。修道士たちは6世紀に聖ベネディクトによって定められた共同生活の規則を守っていた。11世紀半ば以降、修道院はブルゴーニュの偉大な修道院クリュニーに率いられたベネディクト会に属し、当時はローマ教皇庁と協力して教会内に大きな改革をもたらそうとしていた。

11世紀から12世紀にかけてはモワサックの最盛期で、修道士の数はおそらく100人に達したと思われる。1063年には、フランス南西部の全司教の出席のもと、修道院付属教会が奉献された。1100年には、ロマネスク様式の大きな回廊が完成した。数年後、鐘楼ポーチの南側に、彫刻で飾られた扉口と有名なティンパヌムが設置された。これらの工事は、12世紀初頭にオーヴェルニュとカタルーニャの間に何百もの所有権(教会、領地、土地、様々な権利)を主張した修道院の権力によって可能になった。修道院長のデュラン・ド・ブレドン(Durand de Bredons)は1059年から1071年までトゥールーズの司教も務め、修道士たちの中にはスペインのレコンキスタで指導的な役割を果たした者もいた。

デュラン・ド・ブレドン(Durand de Bredons)については、彼の肖像彫刻が回廊にあります。

13世紀には、偉大な修道院長ベルトラン・ド・モンタイグット(Bertrand de Montaigut)が、レンガを使って修道院の建物を大規模に改修した。15世紀にはさらに大規模な改築が行われた。ロマネスク様式の身廊の下部は保存され、ゴシック様式の高さを支えるために両側に2つのバットレスが加えられた。クワイヤと聖域は新しい様式で完全に再建された。

1626年以降、修道士たちは修道院の壁の中に住まない権利を得て、律修司祭(chanoines)となった。16世紀以来、修道院長(abbé)は修道院とその収入を報酬とみなしており、もはや修道院(abbaye)には住んでいなかった。

1790年、フランス革命によってモワサックの共同生活はすべて終わりを告げた。修道院は様々な区画に分けて売却され、修道院付属教会はモワサックの町の教区教会となった。

1855年、鉄道会社は、回廊の北翼に並んでいた建物、特に食堂を取り壊す許可を得た。

この後も、案内板を引用する時に太字で書きます。

3. 平面図

案内板による平面図です。東が右上です。

案内板より

緑色:9世紀〜19世紀
桃色:11世紀〜13世紀
赤色:12世紀
青色:15世紀
紫色:11世紀〜15世紀
黄色:11世紀〜19世紀(本質的に18世紀の様相を持つ)
橙色:11世紀〜20世紀(本質的に19世紀の様相を持つ)
線路:鉄道(19世紀半ば)
水色点線:敷地の境界線の予想図
黒色点線:鉄道敷設により破壊された食堂
赤色点線:破壊された修道院建物の予想図

4. 外観(南扉口)

南扉口をみます。

南扉口は、回廊(1100年に完成)のすぐ後に彫刻された

南扉口

ティンパヌムには『ヨハネの黙示録』による最後の審判が描かれています。

『ヨハネの黙示録』4章1節〜7節(黙示録=啓示)のテキストに何よりも触発され、ティンパヌムの偉大なキリストは、聖典(福音書と旧約聖書)の象徴の中に鎮座している。キリストによって形成される中心軸は、被造物全体を自身の方へ引き寄せている。

『ヨハネの黙示録』4章
1: その後、わたしが見ていると、見よ、開かれた門が天にあった。そして、ラッパが響くようにわたしに語りかけるのが聞こえた、あの最初の声が言った。「ここへ上って来い。この後必ず起こることをあなたに示そう。」
2: わたしは、たちまち“霊”に満たされた。すると、見よ、天に玉座が設けられていて、その玉座の上に座っている方がおられた。
3: その方は、碧玉や赤めのうのようであり、玉座の周りにはエメラルドのような虹が輝いていた。
4: また、玉座の周りに二十四の座があって、それらの座の上には白い衣を着て、頭に金の冠をかぶった二十四人の長老が座っていた。
5: 玉座からは、稲妻、さまざまな音、雷が起こった。また、玉座の前には、七つのともし火が燃えていた。これは神の七つの霊である。
6: また、玉座の前は、水晶に似たガラスの海のようであった。この玉座の中央とその周りに四つの生き物がいたが、前にも後ろにも一面に目があった。
7: 第一の生き物は獅子のようであり、第二の生き物は若い雄牛のようで、第三の生き物は人間のような顔を持ち、第四の生き物は空を飛ぶ鷲のようであった。
ティンパヌム

長老たち表情豊かに描かれています。

長老たち

ニンブスが繊細に飾られています。

キリスト、強そう。

聖マタイとキリスト

被造物は、(左側の彫刻が示す)罪によって神から切り離されたが、(右側の彫刻が示す)受肉によって救われるのであり、最後の審判の約束と教会の最終的な勝利は、11世紀と12世紀に制度化され、天のエルサレムの地上の守護者となった。

左側には「ラザロと金持ち」(『ルカによる福音書』16章 19節〜31節)が描かれています。

1. 金持ちの宴会が行われる。
2. 貧しく飢えたラザロが戸の陰に横たわり、犬に傷を舐められている。
3. 幼な子の姿をしたラザロの魂が、天使たちによって楽園の宴席にいるアブラハムの懐に連れて行かれる。
4. 陰府でさいなまれる金持ちに語られた言葉を示す。
5. 金持ちの妻は彼のために泣く。幼な子の姿をした彼の魂はで悪魔に連れ去られ、羽の生えた悪魔が彼の財布を奪う。
6. 陰府と悪魔。
7. 玉座に座る男性:高慢と強欲。

8. 蛇とヒキガエルに噛みつかれる女性:欲望。

右側にはイエスの幼年期が描かれています。

1. 受胎告知
2. ご訪問
3. 東方三博士の礼拝
4. 神殿奉献
5. エジプトへの逃避
6. エジプト人の異教の偶像が、聖家族の到着と同時に倒れる。

左側
右側

扉の左には聖ペトロ、トリュモー(trumeau、大きな中央柱)の左には聖パウロ、トリュモーの右には預言者エレミヤ、そして扉の右には預言者イザヤの全身像があります。

ペトロ
パウロ
エレミヤ
イザヤ

エレミヤの美しさが有名です。

エレミヤ

5. 内観(鐘楼ポーチ)

鐘楼ポーチに入ります。

鐘楼ポーチにて南東を向く

大きな十字ヴォールトもかっこいいですし、それを支える柱頭の彫刻も素晴らしいです。

鐘楼ポーチ内の柱頭:サムソン

6. 内観(教会)

鐘楼ポーチ内にある西扉口から教会に入ります。

身廊にて東を向く

身廊には、4世紀の石棺もありますが、割愛します。

ご紹介するのは、磔刑像。

この多色木製の美しいロマネスク様式のキリスト像(1130-1140年)は、ティンパヌムの彫刻と同時代のもので、非常によく似た様式である。

磔刑像

骨や筋肉まで丁寧に彫られています。

7. 内観(回廊)

回廊に行きます。

入場料(€7)を払うと、リーフレットがもらえました。日本語版もありました。

リーフレット

回廊の柱には、主に、使徒たちが描かれています。

鐘楼:北西角にて南東を向く

ただし、東廊下の中央にある柱には、修道院の最盛期に修道院長だったデュラン・ド・ブレドン(Durand de Bredons)が描かれています。

彼は1059年から1071年までトゥールーズの司教も務めました。司教杖を持っているのは、そのためだと思います。

柱VIII

回廊にある76の柱頭には、物語性のある彫刻がたくさんあります。例えば、「獅子の穴の中のダニエル」(『ダニエル書』6章)や「羊飼いへの告知」(『ルカによる福音書』2章)など。

リーフレットによると、ダニエルはキリストの到来を宣言した最後の預言者と考えられており、羊飼いは受肉の最初の証人です。これらの物語をひとつの柱頭に描くことで、旧約聖書の意味を新約聖書で明らかにしているそうです。

柱頭5:獅子の穴の中のダニエル
柱頭5(別角度):羊飼いへの告知

私が目を奪われたのは、アバクス(柱頭の上に置かれてアーチを支える部分)の装飾です。

こちらのアバクスでは、双頭の鷲たちが翼を広げます。

柱頭22

幻想的な生き物たちが跋扈。

柱頭67

首をぐにゃりと曲げるなど、まるで装飾写本からぬけでてきたよう。

柱頭74

とても興味深い彫刻がいっぱいです。

回廊:北廊下にて南西を向く

8. 内観(鐘楼上階)

回廊から、鐘楼の上階に行くことができます。回廊の南西の角にアクセスがあります。

鐘楼上階へのアクセス

上には、10世紀のオルガンがありますが、割愛します。

見上げると、天井が傘みたいで、すごい。

鐘楼上階の天井

サン=ピエール・ド・モワサック修道院(Abbaye Saint-Pierre de Moissac)。南扉口はロマネスク彫刻の傑作です。身廊には多色木製の美しい磔刑像があります。鐘楼ではその建築と柱頭に驚き、回廊では柱頭や柱の彫刻に魅せられます。

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