ポワティエ(Poitiers)<1>

2024年5月7日(火)、最初に訪れたのはPoitiers、Église Saint-Hilaire Le Grandです。

ここは、12世紀半ばまで司教たちの埋葬場所だった教会です。柱頭彫刻やサン=サヴァン(Saint-Savin)と同じ工房によって描かれたと考えられている壁画が残ります。

Poitiers では、6か所に行きました。以下のように6回に分けて書きます。
<1> Église Saint-Hilaire Le Grand
<2> Église Saint-Porchaire
<3> Église Notre-Dame-la-Grande
<4> Église Sainte-Radegonde
<5> Musée Sainte-Croix
<6> Baptistère Saint-Jean

目次

1. Poitiers へ .
2. 概要 .
3. 平面図 .
4. 外観 .
5. 内観(柱頭彫刻) .
6. 内観(壁画) .

1. Poitiers へ

ポワティエ(Poitiers)は、ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏ヴィエンヌ県の県庁所在地です。同県のあたりはポワティエ(Poitiers)を歴史的な中心地とし、ポワトゥー(Poitou)地方と呼ばれます。

ポワティエ(Poitiers)は、アングレーム(Angoulême)の約103km北、トゥール(Tours)の約95km南にあります。

北側遠景

教会は、町の南西側にあります。

町の中心から来ると、正面(木々の向こう)に鐘楼が見えます。

2. 概要

教会の外に案内板がありました。私が一部を抜粋して太字で和訳します。

追放された司教、聖ヒラリウス(Hilaire)
聖ヒラリウスは、初期キリスト教の最も重要な人物の一人である。350年頃にポワティエ司教に選ばれた彼は、キリストの神性を否定するアリウス派との戦いに身を投じた。356年、アリウス派を支持していたコンスタンティウス2世によって現在のトルコ中心部にあるフリュギアに追放された。そこで主著『三位一体論』の執筆に着手し、360年に教区に戻った。宗教問題における皇帝権力の侵犯を糾弾し、カトリックを伝道するために自らを頼ってきた聖マルティヌスをリグージェに据えた。聖ヒラリウスは368年1月に亡くなったと思われる。

Église Saint-Hilaire Le Grand
この主要なキリスト教建築物は、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路と、町の初代司教であるヒラリウス(Hilaire)に関連している。彼が368年に亡くなったとき、彼の埋葬のために最初の礼拝堂が建てられた。

11世紀には、広大な新しい教会が建てられた。1049年に献堂されたこの教会は、全体が丸天井で、当時としては大きな建築革新であった。

後陣には11世紀末に黙示録の場面が描かれた。同時代の他の絵画は、周歩廊の祭室と身廊の柱を飾っている。交差部と身廊の接合部には、おそらくヒラリウス(Hilaire)と思われる聖人の死を描いた柱頭がある。教会は宗教戦争で略奪され、フランス革命で荒廃した。19世紀後半、ファサードと身廊の大部分が再建された。

この後は、教会の中にあった案内掲示や案内シートを引用する時に太字で書きます。

3. 平面図

案内掲示による平面図です。東が上です。

案内掲示より

柱間の大きさが異なる五廊式です。

4. 外観

分岐を左(東)に進みます。

建物の北側に位置する鐘楼のポーチは、おそらく巡礼者のための入り口として機能していたのであろう。

鐘楼に現在、ポーチはありません。けれど、かつてはこの鐘楼に主扉口があったようです。

北東側外観

北翼廊の切妻に、再利用された浮き彫りが埋め込まれています。

北翼廊

東に行きます。

周歩廊に四つの放射状祭室、南北の翼廊にひとつずつ小祭室があります。

南東側外観

軒下をみると、柱頭、持ち送りやメトープ(浮彫石板)に装飾があります。

南翼廊の小祭室

ぬかりない。

5. 内観(柱頭彫刻)

西扉口から教会に入ります。

柱がいっぱい。

12世紀に木造の屋根から石造りの屋根に変更されたことが、この教会内の柱の数が異常に多い理由である。

身廊にて東を向く

いくつかの柱頭に彫刻があります。翼廊から二つご紹介します。

柱頭1:南翼廊

「エジプトへの逃避」(『マタイによる福音書』2章)だと思います。

聖母子が天使たちに守られて進んでいます。

柱頭1:南翼廊
柱頭2:北翼廊

「聖ヒラリウス(Hilaire)の死」:聖ヒラリウスは兄弟たちに見守られ、その魂は天使たちによって神の御手へと運ばれる。

柱頭2:北翼廊

教会内の彫刻装飾は、西洋におけるロマネスク彫刻の最初期を代表するものである。

天使たちの表情や翼などが、写本挿絵のような姿です。

6. 内観(壁画)

身廊の柱をみます。

この教会は、サン・サヴァン・シュル・ガルタンプと同様の様式、色彩、技法によって全体が壁画で覆われていた。柱に描かれているのはポワティエの司教たちで、12世紀半ばまでこの教会は司教たちの埋葬場所だったからである。

身廊にて北東を向く

交差部に行きます。

柱の彩色、サン=サヴァン(Saint-Savin)を思い出します。

交差部にて北西を向く

交差部で上を向くと、勝利アーチに黄道十二宮が描かれています。

勝利アーチは、交差部からクワイヤへの入り口を示している。このアーチを飾る壁画は11世紀後半のものである。壁画は月と星座を表しており、北側の1月と磨羯宮から始まる。続いて、2月と宝瓶宮、3月と双魚宮、4月と白羊宮、5月と金牛宮、6月と双子宮、7月と巨蟹宮、8月と獅子宮、9月と処女宮、10月と天秤宮、11月と天蝎宮、12月と人馬宮が描かれている。

勝利アーチ

交差部で東を向きます。

四分球に描かれていたと思われる絵画は失われたが、おそらく、四福音書記者の象徴に囲まれ、黙示録の長老たちを従えた栄光のキリストであった。

1980年代、クワイヤのアーケードにおいて、黙示録の七つの場面が発見され、1980年代末に修復された。これらの壁画は11世紀後半に描かれたものである。美術史家たちは、サン・サヴァンと同じ工房によって描かれたと考えている。

左から右へ読むと、『ヨハネの黙示録』の1章から12章に対応している。

これらの図像は、おそらく写本から着想を得たものである。

交差部にて東を向く

クワイヤに置いてあった案内シートに従って黙示録の七つの場面を描いた壁画をみます。

第1の場面
第1スパンドレル:ヨハネと天使

立っている人物が、天使と向かいあっている。

『ヨハネの黙示録』1章
1: イエス・キリストの黙示。この黙示は、すぐにも起こるはずのことを、神がその僕たちに示すためキリストにお与えになり、そして、キリストがその天使を送って僕ヨハネにお伝えになったものである。
2: ヨハネは、神の言葉とイエス・キリストの証し、すなわち、自分の見たすべてのことを証しした。
3: この預言の言葉を朗読する人と、これを聞いて、中に記されたことを守る人たちとは幸いである。時が迫っているからである。
第1の場面
第2の場面
第2〜第4スパンドレル:ヨハネと四騎士

ヨハネは左側に立ち、第1のアーチの頂点を見ている。最初の3頭の馬は、黙示録の本文に従って表現されている。かろうじて判別できる第4の騎手は、第3のアーチの上におり、少なくとも8人の集団に向かって突進している(第4スパンドレル)。

『ヨハネの黙示録』6章
1: また、わたしが見ていると、小羊が七つの封印の一つを開いた。すると、四つの生き物の一つが、雷のような声で「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた。
2: そして見ていると、見よ、白い馬が現れ、乗っている者は、弓を持っていた。彼は冠を与えられ、勝利の上に更に勝利を得ようと出て行った。
3: 小羊が第二の封印を開いたとき、第二の生き物が「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた。
4: すると、火のように赤い別の馬が現れた。その馬に乗っている者には、地上から平和を奪い取って、殺し合いをさせる力が与えられた。また、この者には大きな剣が与えられた。
5: 小羊が第三の封印を開いたとき、第三の生き物が「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた。そして見ていると、見よ、黒い馬が現れ、乗っている者は、手に秤を持っていた。
6: わたしは、四つの生き物の間から出る声のようなものが、こう言うのを聞いた。「小麦は一コイニクスで一デナリオン。大麦は三コイニクスで一デナリオン。オリーブ油とぶどう酒とを損なうな。」
7: 小羊が第四の封印を開いたとき、「出て来い」と言う第四の生き物の声を、わたしは聞いた。
8: そして見ていると、見よ、青白い馬が現れ、乗っている者の名は「死」といい、これに陰府が従っていた。彼らには、地上の四分の一を支配し、剣と飢饉と死をもって、更に地上の野獣で人を滅ぼす権威が与えられた。
第2の場面
第3の場面
第5スパンドレル:魂に白い衣を与える天使

祭壇の下にある魂は、神の言葉と自分たちがたてた証しのために殺された人々の魂である。彼らは神の正義を求める。

『ヨハネの黙示録』6章
9: 小羊が第五の封印を開いたとき、神の言葉と自分たちがたてた証しのために殺された人々の魂を、わたしは祭壇の下に見た。
10: 彼らは大声でこう叫んだ。「真実で聖なる主よ、いつまで裁きを行わず、地に住む者にわたしたちの血の復讐をなさらないのですか。」
11: すると、その一人一人に、白い衣が与えられ、また、自分たちと同じように殺されようとしている兄弟であり、仲間の僕である者たちの数が満ちるまで、なお、しばらく静かに待つようにと告げられた。
第3の場面
第4の場面
第6スパンドレル:香炉を持つ天使

天使が「香の祭壇」(『出エジプト記』30章1節)に向かっている。彼の左腕は上に伸びており、香炉の球が見える。彼は、殉教者の魂に白い衣を配る天使と向かい合っている。

『ヨハネの黙示録』8章
3: また、別の天使が来て、手に金の香炉を持って祭壇のそばに立つと、この天使に多くの香が渡された。すべての聖なる者たちの祈りに添えて、玉座の前にある金の祭壇に献げるためである。
4: 香の煙は、天使の手から、聖なる者たちの祈りと共に神の御前へ立ち上った。
第4の場面
第5の場面
第7スパンドレル

案内シートは『ヨハネの黙示録』10章や11章の場面ではないかと論じますが、こう締め括っています。

しかし、絵の状態を考えると、この場面の特定は不確かなままである。

第5の場面
第6の場面
第8スパンドレル:女に大きな鷲の翼を与える天使

左側に竜が見える。女は玉座に座っている。太陽はラテン語の銘(SOL)で示されている。女の上にいる小さな天使から光線が発せられ、女だけに降り注いでいるが、これは太陽の寓意であろう。女の頭上には、12個の星のうち8個が輝いている。これは明らかに、マリアから生まれたメシアと、サタンとの対決を指している(8月15日のミサでは12章が朗読される)。

『ヨハネの黙示録』12章
1: また、天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。
2: 女は身ごもっていたが、子を産む痛みと苦しみのため叫んでいた。
3: また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、火のように赤い大きな竜である。これには七つの頭と十本の角があって、その頭に七つの冠をかぶっていた。
4: 竜の尾は、天の星の三分の一を掃き寄せて、地上に投げつけた。そして、竜は子を産もうとしている女の前に立ちはだかり、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた。
5: 女は男の子を産んだ。この子は、鉄の杖ですべての国民を治めることになっていた。子は神のもとへ、その玉座へ引き上げられた。
...
13: 竜は、自分が地上へ投げ落とされたと分かると、男の子を産んだ女の後を追った。
14: しかし、女には大きな鷲の翼が二つ与えられた。荒れ野にある自分の場所へ飛んで行くためである。女はここで、蛇から逃れて、一年、その後二年、またその後半年の間、養われることになっていた。
第6の場面
第7の場面
第9スパンドレル:ミカエルと竜の戦い

左側では、ミカエルと天使がドラゴンと戦っている。車は東に向かっているが、大天使と天使は黒く細い槍で竜を倒すために振り向く。これは、アダムとエバの物語における蛇の最終的な敗北である。

『ヨハネの黙示録』12章
7: さて、天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちも応戦したが、
8: 勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所がなくなった。
9: この巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、投げ落とされた。地上に投げ落とされたのである。その使いたちも、もろともに投げ落とされた。
10: わたしは、天で大きな声が次のように言うのを、聞いた。「今や、我々の神の救いと力と支配が現れた。神のメシアの権威が現れた。我々の兄弟たちを告発する者、/昼も夜も我々の神の御前で彼らを告発する者が、/投げ落とされたからである。
第7の場面

最後である第10スパンドレルの壁画は失われています。

第10章の場面は完全に消失している。おそらくここで、ヨハネが「今や、我々の神の救いと力と支配が現れた。」という天の声を聞いたのであろう。

Église Saint-Hilaire Le Grand。12世紀半ばまで司教たちの埋葬場所だった教会です。柱頭彫刻やサン=サヴァン(Saint-Savin)と同じ工房によって描かれたと考えられている壁画が残ります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です