2022年9月11日(日)の最後、二番目に訪れたのは Saint-Chef。サン=シェフ修道院の Église Saint-Theudère です。
教会の中には、複数の箇所にフレスコ画が残ります。特に素晴らしいのが、Chapelle haute にある12世紀のフレスコ画。
Chapelle haute は、6月中旬〜9月末までの毎週日曜日午後3時からの観光局によるガイドツアーでのみ見学可。10月〜翌年6月中旬までは閉鎖。(2022年現在)参加者数に制限があるので、予約必須です。狭い階段を上り下りするため、移動に問題がある人は参加が難しいです。また、バックパックは禁止です。
目次
Saint-Chef へ
ガイドツアーはフランス語だけ
概要
フロアプラン
外観
内観:全体
内観:Chapelle Saint-Theudère
内観:Chapelle haute へ
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 天井
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 東側
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 北側
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 南側
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 西側
内観:狭い階段
Saint-Chef へ
夫と私はリュイ(Lhuis)から南西に25km、25分ほど運転して、イゼール(Isère)県にある、大きな修道院がでーんと存在感を放つ村に着きました。14時半頃のことです。
ガイドツアーはフランス語だけ
14:45までに観光局(l’Office de Tourisme)でガイドツアー料金を支払うように言われていました。観光局は、博物館の建物の中にあります。
私はここで、悲しい事実を知ります。ガイドツアーはフランス語だけで行われるとのこと。フランス語がわからないと言ったら、仏英二か国語で書かれたリーフレットをくれました。
でも、より詳しい情報が欲しかったので、観光局で売られていた本を1冊買いました。(Marion Vivier, “Les fresques romanes de Saint-Chef” (2000) Isbn978-2-35567-019-0)
概要
買った本を一部抜粋して太字で和訳すると:
6世紀に聖テウデリウス(Saint-Theudère)によって創設されたサンシェフ修道院は、中世のドーフィネ(Dauphiné)で最も重要で輝かしい修道院の一つであった。
教会と修道院の建物は、ベネディクト会修道院が大いに繁栄した11世紀から12世紀にかけて再建された。現存するのは、12世紀の教会のみである。
そのプロポーションと純粋な建築ラインは注目に値するが、この建物は完成直後から大規模な装飾キャンペーンが行われた。
ほとんどの教会が全面的に描かれていた時代の、あまりにも珍しい証人であるこの Chapelle haute は、天使の礼拝堂(Chapelle des Anges)とも呼ばれ、ローヌ・アルプ地方で保存されているロマネスク様式のフレスコ画の中で最も大きなものである。
主なテーマは、キリストと天上のエルサレムの幻影であり、黙示録を参照することで、この空間全体が終末の都市を想起させるものとなっている。修道士しか立ち入ることができなかったこの小さな礼拝堂で、その最も優れた表現のひとつを見つけることができる。
期待が高まりますよね。
フロアプラン
買った本にフロアプランがありました。東が上です。
Chapelle haute は「高い礼拝堂」だけあって、教会(Église Saint-Theudère)の北翼廊の上の階にあります。
教会は、15世紀に改築された西扉口を除いて、ほぼ12世紀の建築が残っています。
外観
西扉口を除いて、ロマネスク様式のプロポーションが残っています。
ファサードには、以前の教会から持ち出したと思われる、八つの頭部の彫刻が散りばめられています。また、後陣にもあります。でも、長くなるので両方とも割愛します。
内観:全体
バランスの良い三身廊。プロポーションの良い小後陣には、12世紀のフレスコ画が残る場所があります。
内観:Chapelle Saint-Theudère
フレスコ画が残るのが、南小後陣の南端の祭室、Chapelle Saint-Theudère。
マンドルラの中におそらくイエスがいて、両側に美徳の擬人像があります。
Misericordia(慈悲)の下に教会を持っている聖人がいて、おそらく修道院の創設者の聖テウデリウス(仏:Saint-Theudère)と考えられています。
アーチ部分が、保存状態も良くてすごく印象的ですが、これは後代に描かれたものと考えられています。
終末論におけるキリストの玉座の足元にある水晶の海を擬人化したものだそうです。強烈さ加減が、、、すごすぎませんか?
内観:Chapelle haute へ
Chapelle haute へは、北小後陣の北端の祭室(Chapelle Saint-Clément)から行きます。Chapelle Saint-Clément にも壁画がありますが、詳細は割愛します。
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 天井
中央にイエス、イエスの頭上に天上のエルサレム、イエスの足元に聖母マリアがいます。
大量の天使たちと、その翼がとても印象的。
天上のエルサレムは、聖書の通りに描かれています。
『ヨハネの黙示録』21章18節「都の城壁は碧玉で築かれ、都は透き通ったガラスのような純金であった。」
右下に小さく描かれているのは、アダムとエバ。(天使が指差している)2人は贖罪を受けて天上のエルサレムに向かっています。
イエスの本には”Pax Vobis Ego Sum”と書いてあります。たぶん、聖書のこの部分です。
『ヨハネによる福音書』14章27節
「わたしは、平和をあなたがたに残し、わたしの平和を与える。」
イエスの両側には、7人組の天使が向かい合っています。
両7人組とも、片方の端に翼を下げた天使で、もう片方の端は熾天使です。
熾天使は2人とも、聖句(phylactery)を持っています。
聖句(phylactery)は、片方が”SCS SCS SCS DNS DS S”(聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の主、)と始まり、
もう片方がそれに続く言葉”PLENI…RA”(その栄光は全地に満つ」と書かれています。
『イザヤ書』6章3節、よく典礼で歌われるやつですよね。
また、”SCS SCS SCS DNS DS S”の熾天使の左3人目の天使も聖句(phylactery)を持っています。”GRATIAS AGIMUS TIBI”(汝に感謝し奉る)と書いてあります。
こちらも、よく典礼で歌われます。
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 東側
東側です。
窓の下には文字が書かれています。
CONSECRAT (um) EST HOC ALTA
RE IN (h)ONORE D(omi)NI NOSTRI JH(es)U
XPI ET S(anct)OR(um) ARCANGELORU(m)
MICAELIS GABRIELIS ET RA
PHAELIS ET S GEORGII MAR(tyris)
(この祭壇は、主イエス・キリストと聖なる大天使ミカエル、ガブリエル、ラファエル、殉教者聖ゲオルギオスに敬意を表して奉献されている)
窓の両側には、3人の大天使と聖ゲオルギオスが描かれています。
彼らの上には、イエスと四福音書記者の象徴が描かれているようです。
勝利アーチの中央には子羊、その両側には2人の天使がいます。
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 北側
北側の中央には大きな窓があり、その側面には、光背をつけ、手を開いて祈る仕草をした2人の人物が描かれています。
窓の両側には、教会の高官のような人物のグループが描かれています。
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 南側
南側の3分の2は、教会の聖歌隊にある三つのアーケードの開口部で占められています。
柱の左右には髭の人物が2人描かれています。上を向き、幻視について考えているように見えるため、預言者エゼキエルとイザヤであると考えられる。
預言者たちの上には、人がずらりと並んでいます。
左側の12人の預言者と右側の12人の使徒は、旧約聖書と新約聖書の連続性を強調するために、共通の玉座に座っているように描かれている。『詩編』の作者であるダビデは、楽器(シタラまたはリュート)を手にしているため、預言者たちのグループの中央にいるダビデだけがはっきりと確認できる。
内観:Chapelle haute のフレスコ画 – 西側
一番上の、天上のエルサレムのすぐ下には、聖人の群れが描かれています。選民の中に入ることを待っている聖人たち、ということのようです。
聖人たちの下には、4人の福音書記者、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネが描かれている。マタイが福音書を書いている机が見える。右側では、ヨハネが黙示録と思われる封印された書物を指さしており、福音書と黙示録の関連性が確立されている。
内観:狭い階段
修道士だけが入ることを許されていた礼拝堂です。狭い階段も、ならずものの侵入を防いでくれたのかもしれません。
多くのロマネスク美術が後代に破壊された中で、壮大で美しいフレスコ画が奇跡的に残っています。
Église Saint-Theudère、Chapelle haute のフレスコ画が素晴らしいです。
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