セウ・ドゥルジェイ(Seu d’Urgell)<3>

Sant Miquel の見学を終え、最後に Museu Diocesà d’Urgell に向かいます。

回廊を通って、その司教区美術館へ。

回廊

司教区美術館の入り口は、こちら。

Museu Diocesà d’Urgell への入り口

展示は、傑作ぞろいの壁画や、

手前がバルタルガ(Balltarga)から移設された壁画、奥はアイネト(Aineto)から移設された壁画。
バルタルガ(Balltarga)から移設されたロマネスク壁画、部分(12世紀)
バルタルガ(Balltarga)から移設されたロマネスク壁画、部分(12世紀)
パリャス・ソブリラ(Pallars Sobirà)のアイネト(Aineto)から移設されたロマネスク壁画(12世紀)
パリャス・ソブリラ(Pallars Sobirà)のアイネト(Aineto)から移設されたロマネスク壁画、部分(12世紀)

聖母子像、

聖母子像の展示

聖遺物入れなど、充実しています。

聖遺物入れの展示

聖遺物入れって、木箱以外にも多様で、

多様な展示

私が特に気になったのが、上の写真の、左上に写っている球形のもの。左下に写っている蓋つきの軟膏入れ(象牙製、11世紀)と一緒に、修復作業中に大聖堂の主祭壇の中から見つかったそう。

拡大します。

球形の聖遺物入れ(11世紀)

直径5センチくらいでしょうか、片手に簡単におさまるミニサイズで、動物たちが一面に。

かわいい。

でも、ここに来た一番の目的は、ベアトゥス写本。

正面の真っ暗な小部屋が、写本が展示してある場所

展示してある小部屋は、上の写真では真っ暗ですが、人が入るとセンサーが感知して照明がつきます。

いったん中に入って照明をつけてから、もう一度入り口に戻って中をみると、

ベアトゥス写本が展示してある小部屋、照明がついた状態

入り口には「撮影禁止」、「←」、「ベアトゥス」と分かりやすく表示されています。

そう、撮影禁止なんです。残念。

写本は小部屋に入って右のショーケースの中に(ほんの一部ですが)展示してあります。あまりに色あざやかなので「!」と息をのみました。エメラルド色が輝いて、すごくて。

Museu Diocesà d’Urgell、移設された壁画、聖母子像、聖遺物入れなどの展示が充実しています。そして10世紀のベアトゥス写本、必見です。

セウ・ドゥルジェイ(Seu d’Urgell)の見学はこれにて終了。

帰りに司教区博物館の受付で、この本↓を書いました。

この本を紹介しつつ、ベアトゥス写本について書きます。

私が買ったのは英訳版で、2001年に出版されたもの。

書名の通り、セウ・ドゥルジェイのベアトゥス写本とその全装飾挿絵が紹介してあります。

著者は、この司教区美術館長であり、写本が12世紀から属している大聖堂の司教座参事会長。神学と美学の専門家です。(序文より)

1966年から1999年にかけての30以上の文献を参考にしつつ、神父の説教のような、分かりやすくて親しみやすい言葉でつづられています。

本は四つの部で構成されていて、

第一部:11ページ〜35ページ
BEATUS
(ベアトゥスとは?)

第二部:37ページ〜51ページ
THE BOOK OF REVELATION AND THE BOOK OF DANIEL CONTENTS AND MEANING
ヨハネの黙示録ダニエル書の内容と意味)

第三部:53ページ〜61ページ
PECULIARITIES OF THE BEATUS OF LA SEU D’URGELL
(セウ・ドゥルジェイのベアトゥスの特殊性)

第四部:63ページ〜225ページ
THE MINIATURES OF THE BEATUS OF URGELL
(ウルジェイのベアトゥスの写本装飾)

ベアトゥスとは?ってところから始めているのが、とても親切。

ベアトゥスとは男性の名前です。北スペインのアストゥリアス地方にあるリエバナ(Liébana)の修道士ベアトゥスが『ヨハネの黙示録註解』を著したのが8世紀(776年頃)のこと。(本文より)

まだ紙も印刷技術も伝わってないから、大切な文書は動物(羊や牛)の皮をよくのばした羊皮紙に手書きしていた頃で、本なんて、ものすごく貴重だった時代です。

本一冊の価値がどれくらいかって、妊娠している雌牛を三頭も買えるくらい。(本文より)

修道士ベアトゥスが8世紀に書いた『ヨハネの黙示録註解』の原本は現存しませんが、これをもとにした写本が各地の修道院で盛んに制作されました。これらをベアトゥス写本と呼びます。

現在、断片だけでも装飾挿絵が残るベアトゥス写本は24あります。(本文より)

ベアトゥス装飾写本の関係図(『THE BEATUS OF LA SEU D’URGELL AND ALL ITS MINIATURES』より)

10世紀から13世紀にわたり、時代も使用された字体も様々。

なぜ776年頃に『ヨハネの黙示録註解』を(恐らく挿絵入りで)著したのか、というと、800年にこの世の終末が来ると考えられていたから。

この世の終末について伝える聖書は主に『ヨハネの黙示録』ですが、あんまりにも突飛な文章が続く(私の個人的印象です)ので、分かりやすくするために絵と説明をつけたらしい。

西暦800年になってもこの世の終末は来ませんでしたが、写本はその後も数百年のあいだ、各地の修道院の写字室(scriptorium)で作られ続けました。

今回、買った本を読んで知ったのは、ベアトゥス写本が希望の本だったこと。

この世の終末が描かれて、何だか破滅的で怖いイメージがあるヨハネの黙示録ですが、

ヨハネの黙示録1章は、こんな風に始まります。

1: イエス・キリストの黙示。この黙示は、すぐにも起こるはずのことを、神がその僕たちに示すためキリストに与え、それをキリストが天使を送って僕ヨハネに知らせたものである。 
2: ヨハネは、神の言葉とイエス・キリストの証し、すなわち、自分が見たすべてを証しした。 
3: この預言の言葉を朗読する者と、これを聞いて中に記されたことを守る者たちは、幸いだ。時が迫っているからである。 
4: ヨハネからアジア州にある七つの教会へ。今おられ、かつておられ、やがて来られる方から、玉座の前におられる七つの霊から、 
5: また、真実な証人にして死者の中から最初に生まれた方、地上の王たちの支配者、イエス・キリストから、恵みと平和があなたがたにあるように。私たちを愛し、その血によって罪から解放してくださった方に、 
6: 私たちを御国の民とし、またご自分の父である神に仕える祭司としてくださった方に、栄光と力が世々限りなくありますように、アーメン。 

そして、ベアトゥス写本は、この冒頭部分について、玉座につく神が天使に啓示(黙示録)を手渡し、天使が聖ヨハネに黙示録を渡す様子を描きます。

Folio 16r.(『THE BEATUS OF LA SEU D’URGELL AND ALL ITS MINIATURES』より)

上の挿絵の中で、右下にいるニンブス(光背)の無い人は、誰でしょう?

私が買った本の著者は、この人物は私たちかもしれない、と予想しています。

聖ヨハネと一緒に神の言葉を受け取っちゃう。それなら、黙示録を聞いて中に記されたことを守れば、この世の終末が来ても新しい天国の住人になれちゃいそうです。

ベアトゥス写本、希望があることを伝える本だったとは。

精神性も良いけれど、やっぱりベアトゥス写本は何と言っても、その装飾挿絵が素晴らしい。

例えば、私が買った本の表紙に使われている装飾挿絵:Folio 196v. エルサレム包囲攻撃(旧約聖書のダニエル書1章、エレミヤ書52章)の場面。

Folios 196v. and 197r.(『THE BEATUS OF LA SEU D’URGELL AND ALL ITS MINIATURES』より)

ちなみに、Folio 196v. とは196枚目の羊皮紙葉(folio)の裏面(v. は verso の略)のこと。写本は羊皮紙葉を何枚も重ね、木や金属のカバーをつけて本の形にします。そして、羊皮紙の毛が生えていた面を表(recto)、肉に接していた面を裏(verso)と呼びます。

私が買った本(上の写真)では、Folio 196v. を向かって左に、Folio 197r.を向かって右に配置して、写本を読む状態を再現してあります。

写本は、バビロン王の軍勢(向かって右)がエルサレム(向かって左の上)に攻め込む様子を、見開き2ページにわたって劇的に描いているんです。

構図や配置も、登場人物たちもそれぞれ個性豊かで、まるで漫画のよう。

買った本は、全装飾挿絵が紹介してあるので、ひとつひとつじっくりと楽しめました。

私が買ったこちらの本も、司教区美術館でほんの一部だけ公開されているベアトゥス写本も、おすすめです。

 

 

 

 

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