トゥールーズ(Toulouse)<2>

トゥールーズ(Toulouse)のサン・セルナン聖堂(Basilique Saint-Sernin)、続きです。

外に出て南東側、翼廊(transept)のporte des comtesを見ます。最も古い入り口で、11世紀に造られました。

ライオンに挟まれた部分には「SANCTVS SATVRNINVS 」という文字があります。サン・セルナンの像がありましたが、革命時に破壊されました。

柱頭彫刻は全部で八つです。西側から見ましょう。

1 性的快楽を求める男は、悪魔に襲われます。この人、腕が長い。

2 守銭奴は、重い財布を永遠に持たされます。悪魔たち、両脇から重石を増やして楽しそう。

3 性的快楽を求める女は、蛇に胸を噛まれます。この人、良いヘアスタイルです。

4と5は同じテーマです。腕を上げて祈り続けるモーセと、両脇から腕を支えるアロンとフル(『出エジプト記』)。手も腕も長~~い。

6 ドラゴンに頭をかじられる男。がじがじ

7 天使に導かれるラザロの魂。赤ちゃんのようですが、魂です。

8 金持ちとラザロ(『ルカによる福音書』16章19~21節)。真ん中に居るのが金持ち。ひざの上に抱えている板はテーブルで、その上には食べ物があります。右がラザロで、すでにニンブスがあります。

ここで「金持ちとラザロ」について補足します。頻繁に使われる題材です。

『ルカによる福音書』16章19~21節には、こうあります。(一般財団法人日本聖書協会の新共同訳です。)

19 ある金持ちがいた。いつも紫の衣や柔らかい麻布を着て、毎日ぜいたくに遊び暮らしていた。
20 この金持ちの門前に、ラザロというできものだらけの貧しい人が横たわり、
21 その食卓から落ちる物で腹を満たしたいものだと思っていた。犬もやって来ては、そのできものをなめた。

porte des comtesの8番目の柱頭彫刻は、この、『ルカによる福音書』16章19~21節の場面を描いています。(もうニンブスを付けちゃって、聖人みたいな扱いになってるけど。)

そして、この話には続きがあります。

22 やがて、この貧しい人は死んで、天使たちによって宴席にいるアブラハムのすぐそばに連れて行かれた。金持ちも死んで葬られた。
23 そして、金持ちは陰府でさいなまれながら目を上げると、宴席でアブラハムとそのすぐそばにいるラザロとが、はるかかなたに見えた。
24 そこで、大声で言った。『父アブラハムよ、わたしを憐れんでください。ラザロをよこして、指先を水に浸し、わたしの舌を冷やさせてください。わたしはこの炎の中でもだえ苦しんでいます。』
25 しかし、アブラハムは言った。『子よ、思い出してみるがよい。お前は生きている間に良いものをもらっていたが、ラザロは反対に悪いものをもらっていた。今は、ここで彼は慰められ、お前はもだえ苦しむのだ。
26 そればかりか、わたしたちとお前たちの間には大きな淵があって、ここからお前たちの方へ渡ろうとしてもできないし、そこからわたしたちの方に越えて来ることもできない。』
27 金持ちは言った。『父よ、ではお願いです。わたしの父親の家にラザロを遣わしてください。
28 わたしには兄弟が五人います。あの者たちまで、こんな苦しい場所に来ることのないように、よく言い聞かせてください。』
29 しかし、アブラハムは言った。『お前の兄弟たちにはモーセと預言者がいる。彼らに耳を傾けるがよい。』
30 金持ちは言った。『いいえ、父アブラハムよ、もし、死んだ者の中からだれかが兄弟のところに行ってやれば、悔い改めるでしょう。』
31 アブラハムは言った。『もし、モーセと預言者に耳を傾けないのなら、たとえ死者の中から生き返る者があっても、その言うことを聞き入れはしないだろう。』

最初の千年紀が終わる頃、世界の終わりを気にする人が増えました。死んだ後のことを心配する人達にとって、この「金持ちとラザロ」は、響いたんだと思います。

陰府(よみ)があって、生前ぜいたくすると炎で苦しみもだえちゃうんだ。とか、
生前悪いものを受けると、アブラハムの所で慰められるんだ。とか、
その二つの場所どうしは、渡ることも越えることもできないんだ。とか、
モーゼ(と預言者)に耳を傾けないと、陰府に行っちゃうんだ。とか。

わかり易く書かれていますから。

翼廊の西端の壁に、初期キリスト教時代の石棺の断片が埋め込まれています。植物や動物が写実的に表現されています。

側廊の南西側、porte miègeville を見ます。最も新しい入り口で、12世紀に作られました。

持ち送りは全部で八つ。
左側四つと、

右側四つ

西側に聖ヤコブ。聖ヤコブは、スペイン語でサンティアゴ(Santiago)です。スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)への巡礼路を示すので、これは大事。

東側に聖ペトロ。右手で祝福して、天国の鍵をベルトに提げています。ローマへの巡礼路を示すので、こっちも当然、大事。

柱頭は四つ。
西側から、1幼児虐殺、2受胎告知、

3原罪、4ライオン。

ティンパヌム(tympanum、半円部分)は「キリスト昇天」です。キリストが左右3人ずつ、計6人の天使に挟まれています。ダンスの 決め! ポーズに見えます。

ティンパヌムの下の、まぐさ(lintel、二つの支柱の上に水平に渡されたブロック)は12使徒と2人の天使。みんながキリストを見上げる中、左端の天使は、よそみしてます。

サン・セルナン聖堂は、まさにロマネスクの傑作でした。見て良かった。

好きなもの(素朴な修道院)を見る前に、必修科目(立派なロマネスクの大傑作)を終えたような、すがすがしい気持ちでToulouseを出発しました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です