Girona、続きです。刺繍布中央の円形部分を見ます。引き続き、私が実物を見て感じたことを書きます。
私が聖書を参照するとき、ラテン語は Vatican の Nova Vulgata、日本語は一般財団法人日本聖書協会の新共同訳を使います。
さて、円周にはラテン語が刺繍してあって、『創世記』1章1節、『詩編』146編6節の後半部分、『創世記』1章31節の前半部分の順に並んでいます。その部分を引用します。
1:1 In principio creavit Deus caelum et terram.
146:6 mare et omnia, quae in eis sunt
1:31 Viditque Deus cuncta, quae fecit, et ecce erant valde bona.
1:1 初めに、神は天地を創造された。
146:6 海とその中にあるすべてのものを造られた
1:31 神はお造りになったすべてのものを御覧になった。見よ、それは極めて良かった。
なんだか、はればれとした、めでたい気持ちになります。
円形部分の上部には向かって左から闇、神の霊、光が描かれています。『創世記』1章2節~5節を引用します。
1:2 地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。
1:3 神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった。
1:4 神は光を見て、良しとされた。神は光と闇を分け、
1:5 光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である。
「tenebrae super faciem abyssi(闇が深淵の面にあり)」、「spiritus Dei ferebatur super aquas(神の霊が水の面を動いていた)」、「lux(光)」と刺繍してあります。
闇(tenebrae)の隣は、水を分ける場面です。「fecit Deus firmamentum in medio aquarum(神は大空を造り水を分けさせられた)」と刺繍してあります。
『創世記』にこうあります。
1:6 神は言われた。「水の中に大空あれ。水と水を分けよ。」
1:7 神は大空を造り、大空の下と大空の上に水を分けさせられた。そのようになった。
1:8 神は大空を天と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第二の日である。
光(lux)の隣も、水を分ける場面です。「VBI DIVIDAT DEUS AQVAS AB AQVIS(神が水と水を分けた時)」と読めます。画像の縦線は展示ガラスのつなぎ目です、見づらくて残念。
そして、ここには「firmamento(大空)」の中に「sol(太陽)」と「luna(月)」も描かれています。『創世記』では、この部分です。
1:14 神は言われた。「天の大空に光る物があって、昼と夜を分け、季節のしるし、日や年のしるしとなれ。
1:15 天の大空に光る物があって、地を照らせ。」そのようになった。
1:16 神は二つの大きな光る物と星を造り、大きな方に昼を治めさせ、小さな方に夜を治めさせられた。
1:17 神はそれらを天の大空に置いて、地を照らさせ、
1:18 昼と夜を治めさせ、光と闇を分けさせられた。神はこれを見て、良しとされた。
1:19 夕べがあり、朝があった。第四の日である。
第四の日まで行っちゃってます。
その隣は第四の日からさらに物語が進みます。アダムがあらゆる動物に名をつけた場面で、エバの創造につながる場面です。
2:18 主なる神は言われた。「人が独りでいるのは良くない。彼に合う助ける者を造ろう。」
2:19 主なる神は、野のあらゆる獣、空のあらゆる鳥を土で形づくり、人のところへ持って来て、人がそれぞれをどう呼ぶか見ておられた。人が呼ぶと、それはすべて、生き物の名となった。
2:20 人はあらゆる家畜、空の鳥、野のあらゆる獣に名を付けたが、自分に合う助ける者は見つけることができなかった。
「ADAM NON INVENIEBATVR SIMILEM SIBI(自分に似た者は見つけることができなかった)」と刺繍してあります。
妙なことに気づきました。ラテン語の『創世記』2章20節には「Adae vero non inveniebatur adiutor similis eius」とあるんです。つまり、聖書にある adiutor(助ける者、アシスタント)という言葉が刺繍されていません。神の言葉として18節にも出てくるのに。。。忘れた?スペースの都合?それとも、女性は男性のアシスタントじゃないってこと?
ま、いっか。
アダムが動物に名をつけた場面の隣(円形部分の一番下)は、水の中と地の上の生き物の創造です。「VOLATILIA CELI(空の鳥)」、「MARE(海)」と刺繍してあります。
1:20 神は言われた。「生き物が水の中に群がれ。鳥は地の上、天の大空の面を飛べ。」
1:21 神は水に群がるもの、すなわち大きな怪物、うごめく生き物をそれぞれに、また、翼ある鳥をそれぞれに創造された。神はこれを見て、良しとされた。
1:22 神はそれらのものを祝福して言われた。「産めよ、増えよ、海の水に満ちよ。鳥は地の上に増えよ。」
1:23 夕べがあり、朝があった。第五の日である。
ここで第五の日になってますが、その隣は、エバの創造です。「IMMISIT DOMINUS SOPOREM IN ADAM ET TVLIT VNAM DE COSTIS EIVS(神はアダムを眠らせ、あばら骨の一部を抜き取った)」「LIGNVM POMIFERVM(果樹)」と刺繍してあります。
2:21 主なる神はそこで、人を深い眠りに落とされた。人が眠り込むと、あばら骨の一部を抜き取り、その跡を肉でふさがれた。
2:22 そして、人から抜き取ったあばら骨で女を造り上げられた。主なる神が彼女を人のところへ連れて来られると、
2:23 人は言った。「ついに、これこそ/わたしの骨の骨/わたしの肉の肉。これをこそ、女(イシャー)と呼ぼう/まさに、男(イシュ)から取られたものだから。」
ちなみに、アダムというのは「土」とか「人」という意味で『創世記』2章から使われていますが、エバ(命)というのはアダムが名付けました。彼女がすべて命あるものの母となったからで、『創世記』3章20節、原罪をおかした後のことです。
いよいよ、中央です。「REX FORTIS(強い王)」。祝福ポーズのイエスです。
FORTIS が EORTIS になっているのは、誤字でしょう。イエスですよ、ここ、一番大事なとこなんじゃあ?
私ごとですが小学生の時、漢字テストで自信を持って書いた字が不正解で先生から「ハネるところをトメているからです」と言われたことを今でも覚えています。。。そんな私には、このユルさがむしろ愛おしい。
イエスを囲む円には『創世記』1章3節「Dixitque Deus: “Fiat lux”. Et facta est lux(神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった。)」、イエスが持つ本には「聖なる神(Sanctus Deus)」と刺繍してあるようです。
精悍な青い眼のイエス、かっこいいです。
人気者の怪物を拡大してもう一度。
こちらは『創世記』1章 21節の言葉「cete grandia(大きな怪物)」が刺繍してあります。
もう一頭の怪物です。こちらには文字が見当たらず、尻尾が巻いていますが、少しcete grandia に似ています。
どちらも、愛嬌よしです。
最後に、私が気に入った部分を拡大します。漂う空気が明るくて楽しそう。
刺繍を行った人物が誰なのか、特定されていません。恐らく複数の人物が作業にあたったことでしょう。
そして美しい色糸と針を手に、ひとさし、ひとさし、思い描いた図柄を形にしていったはずです。それはきっと楽しい時間で、幸福な気持ちがそのままこの刺繍布にうつったのかな、と私は感じます。
天地創造の刺繍布、終わります。
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