ロッサーノ(Rossano)<4>

2024年8月15日(木)の最後、五番目に訪れたのはRossano、Museo Diocesano e del Codexです。

ここは、ロッサーノ福音書があります。

2024年、博物館は以下の日程で開いていました。有料(€5)でした。
<9月16日から6月30日>
火曜から土曜の9:30〜12:30と15:00〜18:00
日曜祝日の10:00〜12:00と16:00〜18:00
<7月1日から9月15日>
火曜から日曜の9:30〜13:00と16:30〜20:30
一年を通して月曜日は休館でした。

Rossano では、4か所に行きました。以下のように4回に分けて書きます。
<1> Abbazia Santa Maria del Pàtire
<2> Oratorio di San Marco
<3> Duomo di Santa Maria Achiropita
<4> Museo Diocesano e del Codex

目次

1. Rossano へ .
2. 概要 .
3. 館内案内図 .
4. 紫写本 .
5. ロッサーノ福音書 .

1. Rossano へ

ロッサーノ(Rossano)は、カラブリア州コゼンツァ県コリリアーノ=ロッサーノに属する分離集落(フラツィオーネ)で、県都コゼンツァの約44km北東にあります。長靴のようなイタリア半島の爪先です。

博物館は、大聖堂(Duomo di Santa Maria Achiropita)の南東にその入口があります。

博物館の入口

2. 概要

博物館の外にQRコードがありました。私が一部を抜粋して太字で和訳します。

『Codex Purpureus Rossanensis』は、世界最古の福音書のひとつであり、その美しい挿絵によって非常に貴重で独特なものとなっている。ビザンチン芸術の傑作であるこの写本は、ギリシャ語写本として現存するものの中で最古のキリストの生涯に関する独立したサイクルの挿絵の遺物である。

「Codex Purpureus Rossanensis」は、「ロッサーノの紫色の冊子」という意味です。日本では「ロッサーノ福音書」という呼び方が定着しているように思います。

これは福音文学の傑作のひとつである。羊皮紙188枚(376ページ)からなり、『マタイによる福音書』の全文と『マルコによる福音書』のほぼすべてが収められているが、『マルコによる福音書』は最終章の最後の14節から20節が欠けている。

写本の全体的な構成から、もともとは四つの福音書を1冊または2冊にまとめた写本で、目次が付けられていたことがわかる。 現存する部分は、全体の約半分にあたるということを推定できる。 写本の現在の大きさは 307 x 260 mmである。

羊皮紙は丁寧に加工され、紫色に染められている。変色部分は、時にはオリジナルとみなされることもあるが、ほとんどの場合、特に湿度などのさまざまな要因によるものである。

希少教会写本の国際的なリストでは、この写本はアルファベットの接尾辞「Σ」と番号「042」で示されている。『Codex Purpureus Rossanensis Σ』は「Rossanensis」とも呼ばれる。「Purpureus」という名称は、そのページが紫色であることに由来する。

福音書の本文に使用されている書体は「maiuscola biblica」と呼ばれるものである。これは2世紀末から使用されていたもので、3世紀にはすでに厳格な規則が定められ、内部、地理的、時代的な違いはあったものの、9世紀まで図書館で使用されていた。

ロッサーノ(Rossano)写本には14の挿絵がある。そのうち12はキリストの生涯の出来事を描いている(ラザロの復活、エルサレム入城、祭司との対話と神殿からの商人追放、十人のおとめのたとえ、最後の晩餐と洗足、使徒の聖餐、 ゲッセマネのキリスト、生まれつき目の見えない男の癒し、善きサマリア人のたとえ、ピラトの前のキリストの裁判、イエスとバラバの選択)が描かれている。ひとつは、失われた正典表のタイトルとして機能し、最後のひとつは、ページ全体を占めるマルコの肖像画である。すべての挿絵は、福音書の本文に使用された羊皮紙よりも厚い羊皮紙に描かれており、本文のページに使用されたものとは異なる紫色の染料が塗られていた。厚手の羊皮紙は色をよりしっかりと定着させ、不透明度の高い色は、1枚の羊皮紙の表に描かれた絵が裏側から透けて見えるのを防いだ。絵と文章は別々の紙にまとめられている。

『Codex Purpureus Rossanensis』は、聖書、宗教、芸術、古文書学、歴史、文献学の観点から、非常に興味深い資料である。この写本は、ギリシャ・東方とラテン・西方の文明を仲介し要約したカラブリア地方を象徴する文書である。

この写本が作成された場所は、ビザンチン写本の中心地のひとつであり、ほとんどの研究者がシリアのアンティオキアでギリシャ語で書かれた同様の写本との類似性を見出している。他の中心地で作成された可能性も依然として検討されているが、いずれにしても、作成された環境は東ローマ帝国のものであり、ビザンチン帝国の皇族の特徴である紫色から、そのことが分かる。

制作地は判明していません。

この写本は、ビザンチン美術史家や古文書研究者たちによって、5世紀から6世紀のものとされている。

ロッサーノ(Rossano)にこの写本がやってきた経緯については、確かなことは分かっていないが、おそらくは修道院の拡大と関連して、カラブリアや南イタリアにビザンチン文化が広まった時期にやってきたものと思われる。8世紀にコンスタンティノープルあるいはエジプト、イスラム化した北アフリカから偶像崇拝の修道士たちが移住したことに伴い、この都市にもたらされたと考えられている。しかし、より最近の説では、おそらく10世紀に司教区となった際にロッサーノ(Rossano)にもたらされたとされており、これはこの町が最も栄華を誇った時期と一致している。興味深い仮説によると、この写本は、982年夏にロッサーノ(Rossano)に滞在していたビザンチン帝国の王女テオフィラ(オットー2世の妻であり、神聖ローマ帝国の女帝)が持ち込んだ可能性があるという(Mercogliano、2016)。

この写本がロッサーノ(Rossano)で確実に記録されているのは1831年からである。

しかし、この町におけるより古い痕跡は、大聖堂に所蔵されていた古代ギリシャのテキストに火をつけたとして大司教(1697年~1713年)が受けた匿名の告発に由来する可能性がある。実際、大司教は典礼の刷新を目的とした対抗宗教改革の教会の慣習に従って行動していたが、写本の最後のページに残る焼け焦げ跡から、貴重な写本がこれらの火災のひとつで盗まれた可能性が高いと考えられる。

この後は、博物館の中に掲示されていた案内を引用する時に太字で書きます。

3. 館内案内図

泊まったB&Bに博物館のリーフレットがあり、リーフレットに館内の案内図がありました。東が上です。

リーフレットより

サービス
01: チケット売場
07: 上映室
08: ブックショップ

順路A
02: 古代から中世
03: ルネサンス期
04: マニエリズモからバロック期
05: アキロピタ(Achiropita)信仰
06: 17世紀から18世紀
06: 銀細工品

順路B
09: 写本の洞察
10: 写本の緒言
11: 写本の展示

私は博物館員の指示に従って、まず順路Αを巡り、その後に順路Bを巡りました。

4. 紫写本

博物館の中に、ロッサーノ福音書(Codex Purpureus Rossanensis)の概略と、他の紫写本に関する案内が掲示してありました。

『ロッサーノ福音書(Codex Purpureus Rossanensis)』

今日、世界で最も貴重な東方の彩色写本のひとつと考えられている。

その古文書学的特徴と挿絵の特性により、研究者らはこの写本をシリア・アンティオキアの環境でギリシャ語で書かれた同様の写本との強い類似性を見出している。

5世紀から6世紀にかけて作成された写本である。ロッサーノ(Rossano)の司教区と写本の博物館に保管されている。188枚の紙から構成され、376ページに相当する。15の挿絵がある。

『ウィーン創世記(Genesis of Wien)』

6世紀に作成された紫色の写本である。ウィーンのオーストリア国立図書館に保管されている。26枚の紙から構成され、そのうち24枚に挿絵がある。

案内掲示より(ウィーン創世記)
『シノペ福音書(Codex Sinopensis)』

6世紀の紫色の写本または断片で、パリのフランス国立図書館に保管されている。43枚の紙から構成され、5の挿絵がある。

案内掲示より(シノペ福音書)
『ペテルブルク紫写本(Codex Purpureus Petropolitanus)』

別名「写本N」または「断片N」とも呼ばれるこの写本は、洗練された紫色の羊皮紙に堂々としたアンシャル体で書かれている。そのページは残念ながら17世紀にばらばらにされてしまったが、現在はサンクトペテルブルクのロシア国立図書館や世界各地の図書館に保存されている。

案内掲示より(ペテルブルク紫写本)
『ベラティヌス紫写本(Codex Beratinus Purpureus)』

6世紀の紫色の写本である。190枚の羊皮紙からなり、ティラナの国立公文書館に保管されている。

案内掲示より(ベラティヌス紫写本)

さて、紫写本が大切にされている理由は、その材料の貴重さにあります。

辻佐保子『天使の舞いおりるところ』(1990年)にこうあります。

羊皮紙のうちでもことに珍重されたのは、六世紀の一群の作例(『ウイーン創世記』、『シノペ福音書』、『ロッサノ福音書』)で名高い紫羊皮紙であり、これは小アジア産の巻貝の一種である紫貝を染料としていた。皇帝紫という名称が示すように、ビザンティン皇帝の最高位の式服の色でもあった紫は、カロリング王朝の君主たちの心を大いにそそったが、巻貝の染料は容易に入手しがたく、その代用として地色を紫色(フォリウムという植物性液汁を用いるとテオフィルスは記す)に塗ることで満足している例も少なくない。なお紫羊皮紙の場合、文字は金泥ないし銀泥で記された。

羊皮紙そのものが高価だったことに加えて、それを希少な巻貝で皇帝の色に染め、金泥や銀泥で文字を記したのですから、まさに最高級品だったに違いありません。

5. ロッサーノ福音書

いよいよ、ロッサーノ福音書に対面です。

博物館員につきそわれながら特別室に入ると、中央に、ケースに入れられた写本がありました。

ロッサーノ福音書

触ったり、ページをめくったりすることはできません。

ケースの外側から眺めるだけです。

ロッサーノ福音書

色の鮮やかさにびっくり。

ロッサーノ福音書

教会の建物を装飾するとき、こうした貴重な写本を参考にしていたのかなと思います。

Museo Diocesano e del Codex。『ロッサーノ福音書』があります。

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