セルバトス(Cervatos)<2>

Colegiata de San Pedro、続きです。<2>は外観(持ち送り)についてです。

Colegiata de San Pedroについては、以下のように3回に分けて書いています。
<1> 概要、平面図、外観(持ち送り以外)
<2> 外観(持ち送り)
<3> 内観

目次

外観(全体) 
持ち送り1〜13(南扉口) .
持ち送り14〜37(身廊の南)  
持ち送り38〜41(内陣の南) .
持ち送り42〜66(後陣)  .
持ち送り67〜71(内陣の北
  .
持ち送り72〜95(身廊の北)
  .

外観(全体)

教会の北側から来ると、主扉口である南扉口に行くには、後陣の横を通ります。

南東側外観

身廊、内陣、後陣、そして南扉口にまで、見事な持ち送りが並びます。

南側外観

南扉口に13、身廊の南に24、内陣の南に4、後陣に25、内陣の北に5、身廊の北に24、、、合計95の持ち送りがあります。

分かりやすくなると思うので、通し番号をつけます。
持ち送り1〜13(南扉口)
持ち送り14〜37(身廊の南) .
持ち送り38〜41(内陣の南)
持ち送り42〜66(後陣)
持ち送り67〜71(内陣の北)
持ち送り72〜95(身廊の北)

南扉口から順に95個を全部みます。

持ち送り1〜13(南扉口)

1:アクロバット、2:ハープを奏でる人、3:顔を触る人、4:口を開けている生き物、だと思います。

持ち送り1〜3(南扉口)
持ち送り3〜5(南扉口)

5:性交する男女、6:動物、7:巻物を持つ手と動物、8:動物と人、だと思います。

持ち送り5〜7(南扉口)
持ち送り7〜9(南扉口)

9:猿のような男性、10:右手を口にあてる人ともう1人、11:右手で頭、左手で顔を触る男性、12:からみあう2人、13:動物たち、だと思います。

持ち送り9〜11(南扉口)
持ち送り11〜13(南扉口)

持ち送りと持ち送りの間の小壁面に、浮き彫りがあるのも、興味深いです。摩滅していますが、人や動物が複数描かれています。

その浮き彫り装飾には、東洋由来のロマネスク図像に典型的な、寓意的な主題と空想上の動物が描かれている。これらの主題は、キリスト教徒が地上生活で直面する善と悪の闘争と、謙虚さと神への畏れをもって克服しなければならない誘惑を強調している。

持ち送り14〜37(身廊の南)

14:歯をむく動物、15:髪をふり乱す人、だと思います。

私は14の動物の口とレース刺繍のような植物が好きです。

持ち送り14〜15(身廊の南)
持ち送り16〜17(身廊の南)

18:樽を背負う人、20:ヤギ、21:樽を持つ人、だと思います。

21は樽に顔をつけています。樽の中身を飲んでいるのかもしれません。

持ち送り18〜19(身廊の南)
持ち送り20〜21(身廊の南)

22:弦楽器を奏でる人、23:丸いものを持つ人、24:頭を怪物に飲み込まれた人、25:頭を圧迫される人、だと思います。

持ち送り22〜23(身廊の南)
持ち送り24〜25(身廊の南)

26:右手を口に当てる人、28:右手を口に当てる人、29:ウサギ、だと思います。

持ち送り26〜27(身廊の南)
持ち送り28〜29(身廊の南)

30:何かを口に当てる人、31:四角いものを持つ聖職者、32:出産する女性、だと思います。

持ち送り30〜31(身廊の南)
持ち送り32〜33(身廊の南)

35:アクロバット、31:ハープを奏でる人、だと思います。

持ち送り34〜35(身廊の南)
持ち送り36〜37(身廊の南)

私は様々な角度から望遠レンズでたくさん写真を撮りました。角度によって見え方が違うところも、面白いです。できるだけ、一番良く特徴を表していると感じた写真を選んでブログに載せています。

持ち送り38〜41(内陣の南)

38:樽を背負う人、39:ハープを奏でる人、40:樽を持つ人、41:足を咥える人、だと思います。

39のハープを奏でる人、カッコいいです。

40は、樽の中身を飲んでいるのかもしれません。

持ち送り38〜39(内陣の南)
持ち送り40〜41(内陣の南)

持ち送り42〜66(後陣)

43:動物と植物が絡み合っています。14と少し似ています。

持ち送り42(後陣)
持ち送り43〜45(後陣)

46:アクロバット、47:角笛を持つ男性、だと思います。

持ち送り46〜48(後陣)

49:性交する男女、50:出産する女性、だと思います。

49の持ち送りはビジャカンティー(Villacantid)でロマネスク教会のつくり方のサンプルとして使われていました。カンタブリアのロマネスクを代表する作品のように思います。

50の持ち送りは、まだ目の開かない赤ちゃんが、両手でお母さんの両足を持っているようです。面白い。

持ち送り49〜50(後陣)

51:動物、53:ヒツジ、54:両足を両手で持ち上げる女性、だと思います。

53のヒツジ、かわいい。

持ち送り51〜52(後陣)
持ち送り53〜54(後陣)

55:裸の男性、58:大きく口を開ける怪物、だと思います。

持ち送り55〜56(後陣)
持ち送り57〜58(後陣)

59:頭を圧迫される人、60:ヤギ、62:ウサギ、だと思います。

持ち送り59〜60(後陣)
持ち送り61〜62(後陣)

63:怪物のような顔を持つ男性、だと思います。

持ち送り63〜64(後陣)
持ち送り65〜66(後陣)

何を描いたのか不可解なものも多いです。

持ち送り67〜71(内陣の北)

67:ひざまずく裸の男性と怪物、69:アクロバット、70:サル、だと思います。

持ち送り67〜68(内陣の北)
持ち送り69〜71(内陣の北)

69のアクロバットは、両足の間から顔を出しているようです。

持ち送り72〜95(身廊の北)

南側、そして西側を経由して緩やかな坂をのぼり、北西から身廊の北の持ち送りをみます。

南西側外観

身廊の北には、彫刻のない持ち送りも多いです。

持ち送り72〜87(身廊の北)
持ち送り85〜95(身廊の北)

これで、95個全部です。

同じような図を繰り返し描いていることがわかりました。ヤギやウサギなどの動物が複数回登場しました。また、アクロバット、ハープを奏でる人、性交する男女、出産する女性、両足を両手で持ち上げる女性、裸の男性、樽を背負う人、樽を持つ人、なども複数回登場しました。

そこには、男性器を見せる座った人物(卑猥な姿勢)、罪(大食、欲望)を表す様々な物や姿勢、楽器(弦楽器、角笛、横笛、ハープ、タンバリンなど、戯れや俗世を表すポピュラーな楽器)、リンゴ(誘惑)、ヤギ、サル、ウサギなどの否定的な動物など、様々なテーマが見られる。Cervatosのロマネスク彫刻は、その表現力の豊かさで際立っており、ロマネスク様式の枠の法則や限られた空間に完璧に適合した、高さのあるレリーフの豊かなボリュームによって強調されている。主題は、原始的なロマネスク様式で、幻想的で怪物的な動物や黙示録的なモチーフが描かれているが、福音書には触れられていない。サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の道から比較的離れた場所に描かれることが多いが、セルバトスでは写実的で表現力に富み、全国的に見ても際立っている。

ここと同じように、貴重な持ち送りがたくさんあるサン・マルティン・デ・エリネス(San Martín de Elines)で、このように聞きました:持ち送りには、建築的な役割もあるが、それ以上に重要なのは、教えを説く役割である。その象徴学を通して、持ち送りの彫刻は当時の宗教的価値観を教えてくれる。当時の社会は神と宗教を中心にすべてが成り立っていた。村では読み書きができず、「学ぶ」ことは図像を通して行われた。Colegiata de San Martin de Elinesには86の持ち送りがあり、すべてに多様な意味が込められている。シカ、ワシ、ライオン等は神性を表す。一方、ヤギは悪魔を象徴する。中世には、教会は「大罪」を裁く裁判を行う裁判所の役割も果たしていた。

持ち送りは、私には何を描いたのか不可解なものも多いですが、当時の宗教的価値観とその描かれ方を考えることが、とても興味深いです。

これで、教会の外観については、終わります。

次回、教会の中に入ります。

“セルバトス(Cervatos)<2>” への2件の返信

  1. 長旅に重い望遠レンズを持参される熱意が、読む者にひしひしと伝わってくるBlogですね。
    Cervatosの持ち送りは、画像を後処理で拡大すると解像度が落ちて汚い写真になりやすいため、取り扱いの難しいテーマですが、望遠レンズのきれいな画像を並べて、淡々と解説する手際よさにに感服しました。それと、インスタグラムならともかく、Blogをほぼ毎日更新しておられるエネルギーにも舌を巻いています。

    Cervatosの持ち送りに見られる性行為のMotifについては、「もしもふしだらな行為を戒めるのが主意であるなら、女の胸に噛みつく蛇など、罪を罰する寓意を込めた絵柄があるはずだが、それが全く見当らたず、むしろ生(性)の謳歌になっている。これは修道院側が石工たちの自由な表現を黙認した結果ではないか」という見方がありますが、一理あるように思えます。

    さらに言えば、祭壇に次いで重要とされているタンパンに、聖なるMotifが彫り込まれていないことなどもあわせ考えると、僧院として伝統的な教会装飾のお作法に挑戦しようとする意図があったのでは、などとという気もします。

    スペインのロマネスクは史料が極端に少ないため、素人が何とでも言えるようなところがあり、「もしもピカソが12世紀に生まれていれば、Cervatosでこんな仕事をしたはず」と、私は勝手にそう思い込んでいます。

    Blogを継続するのはマラソンに似て、Burnoutを起こさないよう、体力・気力をコントロールするという面があるように思います。どうか健康には十分留意され、今後とも長く続けていかれるよう願っております。

    1. 温かい言葉をありがとうございます。こちらこそ、インスタグラムやブログを拝見して、知識や経験の奥深さに敬服しています。私は2018年にロマネスクを巡り始め、パンデミックで2年半ほど中断し、2022年に再開しました。再開後はリモートワークで長期滞在が可能になり、たくさんの場所を巡っています。できるだけ私の記憶が鮮やかで情報が新しいうちにブログに書きたい次第です。でも、おっしゃる通り、長く続けることを最優先に考えようと思います。

      興味深い見方を教えてくださり、ありがとうございます。なるほど、と思いました。俗世の場面を生き生きと描く彫刻は、人々の目を引いたと思いますし、石工たちの腕の見せ所だったのかもしれないです。

      自分自身が明瞭に見たいので、性能の良い、重いカメラと望遠レンズが必須になってしまいます。2024年は、4月〜5月にフランス、7月〜9月にイタリアに行く計画です。その時も、きっと、重いカメラ機材を背負ってロマネスク教会への田舎道を進みます。安全と健康にじゅうぶん注意しながら。

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