オルシヴァル(Orcival)

2022年8月12日(金)、最初に訪れたのは Orcival。Basilique Notre-Dame です。

ここは、オーヴェルニュ地方のロマネスク芸術を象徴する、主要な五つの教会のひとつです。

イソワール、クレルモン、オルシヴァル、サン=ネクテール、サン=サテュルナンの5か所にある五つのロマネスク教会は、ほぼ同時期に建築され多くの共通点を持つ、姉妹教会。

この五つの中では、私はこことサン=ネクテールを推します。立地が魅力的(山の中にあって、教会の周りに好印象の飲食店や小売店がある)だし、私好みのロマネスク美術がたくさん残っているし。

Orcival へ

私は宿から南西に45分ほど車を運転して、谷あいの村につきました。10時半頃のことです。

Basilique Notre-Dame(南東側遠景)

建物がいっぱいありますが、住人はわずか233人

クレルモン=フェランから30kmほど離れたこの村には、多くの巡礼者と観光客がやって来ます。

教会の中には、リーフレットが9ヶ国語(日本語、中国語、英語、独語、仏語、西語、伊語、葡語、蘭語)版で売られているし、

案内シートも、こちらは仏語版だけですが、数種類(たぶん巡礼者用とそれ以外の訪問者用)が置いてあります。

それらに書いてあったことを引用するときは、太字で書きます。

外観をみます。

Basilique Notre-Dame の外観:全体

北側の無料駐車場に車を停め、見上げると美しい後陣が、どーん。

Basilique Notre-Dame(南東側外観)

放射状祭室の屋根と後陣の屋根との重なりが見事です。

Basilique Notre-Dame(東側外観)

鐘楼は19世紀に再建されたもの。

後陣は、石を象(かたど)ってはめ(嵌め)こんだ、ぞうがん(象嵌)細工が特徴的です。また、南翼廊の外壁にある十字架にも、象嵌細工があります。

Basilique Notre-Dame(南側外観)

聖ヨハネの扉(仏:Porte Saint Jean)と呼ばれている南扉口から教会の中に入ります。

Basilique Notre-Dame の概要

教会の中に複数の案内シートがありました。一部を抜粋して太字で和訳します。

歴史
6世紀にトゥールのグレゴリウスが引用していることから、この場所には9世紀以前から古い巡礼地が存在していたようだ。聖母マリアへの献身と巡礼こそが、この小さな村にこの大きな聖堂が存在する理由である。大規模な聖堂を東向きに建築するためには、山を切り開き、川の流れを変える必要があったが、火山性の石を使い、一度に建設された。

オルシヴァル(Orcival)という名前、なんだか印象的ですよね。由来については、いくつかの説があるそうです。

Val d’Orcus(ガリア人の冥界の神):火山にちなむ。
Ours val(熊の谷):聖ヨハネの扉の一部に熊の皮が使われている。
Ourche val(泉の谷):シウロ川はかつて聖ヨハネの扉を通り、村の出口まで水路があった

これらの中で「泉の谷」の可能性が高いんですって。
さらに、この場所がかつてはケルト人の聖地であったかもしれないと書いてありました。

フロアプラン

教会の中にフロアプランが掲示してありました。東が上です。

教会の中に掲示してあったフロアプラン

教会の中を見学します。

Basilique Notre-Dame の内観:全体

教会の中の、全体の様子。

Basilique Notre-Dame(内観、身廊にて東を向く)

魅力的なプレ・ロマネスクやロマネスク期の美術がいっぱいです。

聖ヨハネの扉

主扉口である南扉口は聖ヨハネの扉(仏:Porte Saint Jean)と呼ばれていて、ロマネスク様式の錬鉄性の金具がかっこいい。金属の端にはかわいい顔が描かれています。フロアプランで3の位置。

聖ヨハネの扉(仏:Porte Saint Jean)

荘厳の聖母像

オーヴェルニュ地方にはロマネスク様式の聖母像が多く残っていて、「威厳のある処女(仏:Vierges en Majesté)」とか「叡智の玉座(羅:sede sapientiae)」として知られます。

こちらにある12世紀の聖母子像も、そのひとつ。フロアプランで16の位置。

Basilique Notre-Dame(内観、周歩廊にて北東を向く)

内陣に鎮座しているんですが、内陣は立ち入りできないし、ケースが光を反射するし、撮影しにくいったら、ありゃしない。仕方ないから、望遠ですよ。

荘厳の聖母像

修復の時に聖母像の背中にへこみが確認できたが、聖母像の胎内に聖遺物があったのかどうかは不明だそう。

有名なのは、上記二つに加えて、こちらの柱頭彫刻。

FOL DIVES(愚か者金持ち)と書かれた柱頭彫刻

聖ヨハネの扉を入ってすぐの場所にあります。フロアプランで5の位置。

FOL DIVESは、愚か者金持ち、という意味である。12世紀の「FOL」という言葉はラテン語の「FOLIS」に由来し、もともとは膨らんだワインの皮、空気の入ったふいごやバルーンを意味し、その延長で頭が空っぽの愚か者や狂人という意味になった。「DIVES」は金持ちのことである。
この愚か者金持ちは財布を握りしめている。悪(死)を象徴する2人の悪魔が、彼を投げ落としているようだ(地獄の象徴)。

FOL DIVES(愚か者金持ち)と書かれた柱頭彫刻

ロマネスク教会でよく見かけるテーマですが、文字つきのものは少ないです。

有名どころをご紹介し終わったように思うので、あとは私の好みスペシャル。

ロマネスク様式の柱頭彫刻

4羽のワシと2人の男。ワシと人の組み合わせが新鮮です。フロアプランで4の位置。

4羽のワシと2人の男の柱頭彫刻

つながれた猿たち。猿が二匹いるのはあんまり見ないかも。フロアプランで13の位置。

つながれた猿たちの柱頭彫刻

ケンタウロスたち、フロアプランで17の位置。

ケンタウロスたちの柱頭彫刻

羊を運ぶ男たち。フロアプランで18の位置。

羊を運ぶ男たちの柱頭彫刻

グリフォンたち。フロアプランで19の位置。

グリフォンたちの柱頭彫刻

悪魔。フロアプランで20の位置。

悪魔の柱頭彫刻

ワシと人魚。ワシと別のキャラクターを組み合わせるのが好きなのかな、この石工さん。フロアプランで21の位置。

ワシと人魚の柱頭彫刻

たくさん柱頭彫刻を載せましたが、実は、心をわしづかみにされたのは、プレ・ロマネスク(カロリング期)のやつ。

プレ・ロマネスク(カロリング期)の柱頭彫刻

あれ?なんかあるよね?と思って、近寄ってみました。フロアプランで9の位置。

Basilique Notre-Dame(内観、身廊西端にて南西を向く)

まいった。かわいい。

プレ・ロマネスク(カロリング期)の柱頭彫刻

Basilique Notre-Dame。ロマネスク様式の錬鉄性の金具で装飾された聖ヨハネの扉(仏:Porte Saint Jean)を入ると、FOL DIVES(愚か者金持ち)と書かれた柱頭彫刻が出迎え、内陣には荘厳の聖母像が鎮座しています。

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