2024年7月30日(火)、二番目に訪れたのはMatrice、Chiesa di Santa Maria della Stradaです。
ここは、私が大好きな教会です。田園に浮かぶ佇まいが良く、その三後陣の外観が美しいです。そして何より心を奪われるのは、その彫刻です。神秘性とかわいさに驚嘆します。
私は事前にマトリーチェ文化観光振興会(Associazione Loco Matrice)に予約しました。29日または30日で問い合わせたところ、「7月29日(月)は週に一度の閉まる日なので7月30日(火)が良いでしょう」とのことでした。
目次
1. Matrice へ .
2. 概要 .
3. 平面図 .
4. 外観(東側) .
5. 外観(南側) .
6. 外観(西側) .
7. 内観 .
1. Matrice へ
マトリーチェ(Matrice)は、モリーゼ州カンポバッソ県にある村です。カンポバッソ(Campobasso、県都でありモリーゼ州の州都)の約9km北東にあります。
教会は、田園の海に浮かぶ島のような場所にあります。

マトリーチェ文化観光振興会(Associazione Loco Matrice)の方が私たちを出迎えてくださいました。また、リーフレットをくださいました。
2. 概要
リーフレットによる概要です。私が一部を抜粋して太字で和訳します。
マトリーチェの田園地帯にあるロンゴバルド様式の教会(文:フランコ・ヴァレンテ(Franco Valente))
教会は、その建築、伝説、歴史、芸術的表現だけでなく、その神秘性においても、モリーゼ州で最も魅力的な教会のひとつである。
18世紀、モリーゼ州では、サン・マリア・デッラ・ストラーダは、神話に登場するボヴェ王(Re Bove)が、身内の女性の一人に加えた暴力を償うために、他の教会とともに一晩で建てたという伝説が流布した。悪魔が彼を助けたが、教皇が彼に課した時間内に工事を完了することはできなかったと言われている。この伝説に歴史的な証拠はないが、今でもファサードに描かれた雄牛(BOVE、BUE)は、この王の印として語り継がれている。なぜなら、Boveは「牛」を意味するからである。
起源がいまだに謎に包まれているこの教会の歴史は、何十人もの学者が多くの疑問を解決しようと試みてきた。今になってようやく、教会は千年以前に生まれ、奇跡的に現代まで生き残った、ロンゴバルド建築の驚異的な例であると信じるに足る歴史が明るみになり始めている。
1931年、ミケーレ・ガッルッピ神父(Padre Michele Galluppi)がローマで発見した文書は、後にモンターニャ羊皮紙文書(Pergamena Montaganese)と呼ばれ、1039年には既に教会が存在していたことを証明している。しかし、ノルマン文書を研究するために南イタリアを訪れたイギリス人学者エヴェリナ・ジャミソン(Evelina Jamison)が別の文書をベネヴェントで発見し、これに1148年に教会が聖別されたと書かれていた。建設時期を証明する正確な年代を見つけたと確信した彼女は、ファサードの浮き彫りについて、フランスに伝わる英雄叙事詩(正確には『フィオラヴァンテの物語の書(Libro delle storie di Fioravante)』)に由来する物語と解釈した。ジャミソン(Jamison)の権威は非常に強く、60年以上もの間、彼女の彫刻の解釈を疑問視する者はいなかった。
フランチェスコ・ガンドルフォ(Francesco Gandolfo『Le vie del Medioevo』Milano 2000)は、この浮き彫りが聖書から引用された表現であり、フランスに伝わる英雄叙事詩への言及はないことを証明し、ジャミソン(Jamison)の解釈論を否定した。しかし、依然として教会の年代や彫刻の全体的な解釈については疑問が残り、そのほとんどが謎に包まれたままである。
歴史的情報、ガッルッピ(Galluppi)によって発見されたロンゴバルドの羊皮紙、ジャミソンの(Jamison)研究、ガンドルフォ(Gandolfo)の解明、そして浮き彫りの様式的特徴や意味についてのより詳細な分析を整理することによって、ヨーロッパ中世の最も重要な建築物のひとつに数えられるこの傑出した建造物について、より明確な説明ができる。
この後も、リーフレットを引用する時に太字で書きます。
3. 平面図
案内板による平面図です。東が上です。

4. 外観(東側)
東に行きます。

美しい三後陣。

南小後陣の左(南)に階段があります。この階段は、南扉口につながっています。
かつて、巡礼者は南扉口から教会を訪れていたのだそう。
5. 外観(南側)
階段をあがり、南扉口を見上げると、巡礼者の姿があります。

南扉口の真正面には大きな木があるので、斜めからみました。

ティンパヌムでは、アレクサンドロス大王が、2頭のグリフォンによって太陽へと飛んでいます。
私は、この図像が扉口のティンパヌムにあるの、初めてみました。

南扉口の上にある碑文の西面に、男性の顔が彫られています。
これは棟梁または、政治的あるいは財政的に建設に寄与した人物かもしれません。
カンポバッソ(Campobasso)にも同様の浮き彫りがありました。

身廊の南外壁に、神の子羊の浮き彫りが埋めこまれています。
なぜ、ここに?と思うような低い位置です。変なの。

鐘楼は、教会の南西に建っています。

鐘楼の西面に、男性の肩から上の姿が彫られています。
真面目そうな表情です。

6. 外観(西側)
西に行きます。
わお。

私の好きなタイプの彫刻がいっぱいです。
1) 右手で裁きを下す天使=キリスト。審判を始めるために地上に降臨したキリスト。彼は左手で2つの巻物(真理の書)を持っている。
2羽の孔雀が向かい合って杯を傾けている。孔雀は尾を開くことで神の目を示し、聖体の杯を飲むことで死後の生命つまり復活を示している。
「天使=審判のキリスト」と解釈されている例は、サン・ヴィンチェンツォ・アル・ヴォルトゥルノ(San Vincenzo al Volturno)にもありました。
前に出した右足が、もう、かわいい。

柱頭には、雄牛の顔が彫られています。グリオネージ(Guglionesi)のChiesa di San Nicolaにも、(あちらはファサード裏でしたが)同じような雄牛の顔が彫られていたことを思い出します。
2) 騎手は、黙示録の「誠実」および「真実」と呼ばれる方を表している。偽預言者によって送り込まれた獅子が馬を襲う。騎手は剣を振りかざし、獅子を貫こうとしている。
『ヨハネの黙示録』19章
11: そして、わたしは天が開かれているのを見た。すると、見よ、白い馬が現れた。それに乗っている方は、「誠実」および「真実」と呼ばれて、正義をもって裁き、また戦われる。

3) 獣と偽預言者の死による、いわゆる最後の戦い。

4) ヨナが海の怪物(pistrice)に呑み込まれる。これはキリストの復活の象徴である。
ちなみに、海の怪物をイタリア語で pistrice と呼びます。pistrice は蛇の尾を持つようです。
そして、ラテン語の聖書『ヨナ書』には、ヨナが呑み込まれるのは巨大な魚(piscem grandem)と書いてあります。
ここに描かれている生き物はちっとも魚の姿をしていませんが、怪物に呑み込まれている男性は、たぶん、ヨナだと思います。ペトレッラ・ティフェルニーナ(Petrella Tifernina)に同様の図像があり、そこに「ヨナ」と書いてあるからです。


5) カインはアダムとエバの前でアベルを殺す。

6) 髪が十二の輪と十二の軸で川を形作っている女は、エルサレムの擬人化である。
『ヨハネの黙示録』22章
1: 天使はまた、神と小羊の玉座から流れ出て、水晶のように輝く命の水の川をわたしに見せた。
2: 川は、都の大通りの中央を流れ、その両岸には命の木があって、年に十二回実を結び、毎月実をみのらせる。そして、その木の葉は諸国の民の病を治す。
彼女の首には碧玉が巻かれている。「都は神の栄光に輝いていた。その輝きは、最高の宝石のようであり、透き通った碧玉のようであった。」『ヨハネの黙示録』21章11節)。

7) 神の目であるオクルスは、神の光が入るエルサレムの都を形づくっている。
『ヨハネの黙示録』21章
12: 都には、高い大きな城壁と十二の門があり、それらの門には十二人の天使がいて、名が刻みつけてあった。イスラエルの子らの十二部族の名であった。
13: 東に三つの門、北に三つの門、南に三つの門、西に三つの門があった。
14: 都の城壁には十二の土台があって、それには小羊の十二使徒の十二の名が刻みつけてあった。
(中略)
18: 都の城壁は碧玉で築かれ、都は透き通ったガラスのような純金であった。
19: 都の城壁の土台石は、あらゆる宝石で飾られていた。第一の土台石は碧玉、第二はサファイア、第三はめのう、第四はエメラルド、
20: 第五は赤縞めのう、第六は赤めのう、第七はかんらん石、第八は緑柱石、第九は黄玉、第十はひすい、第十一は青玉、第十二は紫水晶であった。
21: また、十二の門は十二の真珠であって、どの門もそれぞれ一個の真珠でできていた。都の大通りは、透き通ったガラスのような純金であった。

8) ヨアブはダビデ王の息子アブサロムを追い、殺す。
「イスラエルの中でアブサロムほど、その美しさをたたえられた男はなかった。」(『サムエル記下』14章 25節)と言われたアブサロムは、その長い髪が樫の大木にからまったところを、ヨアブの従卒十人によってとどめを刺されました。(『サムエル記下』18章)

9) 楽園から追放された男は、労働と狩りを強いられる。

魅力的な彫刻は、旧約聖書の物語と黙示録の物語が、見事に展開しています。
7. 内観
教会の中に入ります。

北小後陣に、ひっそりと、彫刻があります。

柱は使徒を表しており、左側の柱はユダ、人の子を裏切った人物である。中世の象徴学によると、猿は悪と裏切りを象徴する。
青い丸で示した場所にある浮き彫りは、猿のような生き物が、頭を地に向けています。

蛇は、アダムを欺いて神を裏切らせた。
赤い矢印で示した場所には、にょろにょろとした何かが彫られています。

どちらの浮き彫りも、なんだか謎めいています。
Chiesa di Santa Maria della Strada。私が大好きな教会です。田園に浮かぶ佇まいが良く、その三後陣の外観が美しいです。そして何より心を奪われるのは、その彫刻です。神秘性とかわいさに驚嘆します。
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